日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

笑顔でコンニチハ

若い頃は誰もが身なりに気を使う。特に女性はそうだろう。一年間だけ姉と東京で暮らしたことがある。彼女の社会人一年目で自分は大学三年。学校のキャンパスが厚木から渋谷に変わったときだった。親は転勤していたので二人暮らしにすれば安心だったのだろう。

申し訳ないが姉は弟から見ても特に容姿が優れているとは思わなかった。髪の毛は細く光の輪など縁がなさそうだった。そんな姉でも毎朝早起きして髪の毛にドライヤーをあてているのだった。重たそうな一重まぶたにメイクをするのだが自分にはそれが良い方向に進んでいるのかそうでないのかわからなかった。ただ女性は大変だな、と思った。

こんな奴でも外出時は一応気を使う。髭の剃り忘れなどよくある話だった。不快感を与えてはいけない。洗面鏡を見てチェック。すると時々嫌なヤツがコンニチハしているではないか。ハサミを取り出してそれをパチパチ切る。なかなか硬い。根性のあるやつなどはひじきのようだ。ハサミの角度を変えてチョキチョキする。時々引っこ抜く。ブチッという感覚も痛いがおさらばできると思うと心地よい。

高校生の頃、可愛いい女子がいた。自分の好きなタヌキ顔で、下膨れ系の愛嬌あるお顔だった。今思えば髪形はすでに当時流行っていた聖子ちゃんカットだったかも知れない。彼女と話すとドキドキしたが、ある日発見したのだった。鼻から黒い毛が恥ずかしそうにコンニチワしている。僕は雷に打たれた。なんと素敵な人だろうと。

妻と結婚した決め手の一つは青のりだった。一緒にお好み焼きを食べていた。自分で焼く東京スタイルお好み焼きだった。焼き上がってソースに鰹節、紅生姜などを載せる。一応聞いてみた。青海苔かける?確認の上振りかけた。「エビイカミックスもブタ玉も美味しいね」という彼女の顔を見て、やはり雷に打たれた。前歯に青海苔が付着してコンニチワしているのだった。

男以上に女性は身なりに気を使う。姉ですら時間をかけて髪の毛をととのえ香水などもつけるのだった。不思議なスプレー類も吹き付ける。そこまで準備して外に出ても、歓迎されないものがコンニチワしてしまう。そのギャップに人間らしさを感じたのだと思う。

人も動物。保護しなくてはいけない器官には防御の毛も生える。エネルギー摂取のために食べなくてはいけない。すると毛は顔を出し食べ物のカスは口の周りにつくだろう。それを隠そうとするのは「秘すれば花」という世阿弥から続く日本人ならではの美学かもしれない。しかしどうしても水が漏れる。そのズレが僕には嬉しく感じられたのだった。なんだ、あなたも人間なんだね、と。

あれからお好み焼きには青海苔を振らないようになった。多分これ以上人を好きにならないように、と頭の何処かで思っているのだろう。鼻毛も気づけば切るが、職場のトイレの鏡で見つけると困ってしまう。コソコソと切るしかない。

これからの時代。素のままで過ごす事が一番良いのだろう。僕はただの生き物なのだ、と世間様に向かって広言したい。何も気にせずに笑顔でコンニチハといきたい。

お好み焼き。具をこねてぼてりと鉄板に載せる。こんがり焼けたか。さて青のり。貴方はどうするだろう。

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