日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

火中の栗

アクション・ムービーを映画館で見よう、そう妻と話していた。何作も続いているスパイものの最新作。テレビで流れる予告編では主人公がバイクにまたがりアクセル全開で尾根道を駆け上がりそのまま岩山の頂上からダイブする、という相変わらず固唾をのむシーンだった。敵を追っているのか、逃走しているのか・・。余り映画を見るほうではないが、これはスリルとスピードが楽しめるので映画館で見るのに相応しい。そういえば前作は有楽町で見たね、と話したのだった。

浜松町は芝大門に美味しい四川料理の店がある。かつて当地に会社の事務所がありいつもそこでランチメニューを食べたり、夜にはビールと紹興酒だった。休日の昼、眠たそうな芝大門の街に家内と行った事があった。この店のランチを食べたら喜ぶだろう、と思ったのだった。辛いものが苦手な彼女でも食べられて満足だったようだ。以来、何度か彼女はまたあの店に行きたいという。余りあれこれ言わない妻がそう言うのなら必ず実現させなくてはいけない。

夕方にはそれぞれにパート仕事の予定があり、では朝早くの上映を見てお昼にそのランチを食べようと計画はまとまった。日比谷の映画館で良い時間帯があった。日比谷で映画、芝大門でランチ、と計画はまとまった。

しかし今朝目覚めて思うのだった。朝の京浜東北線に乗って有楽町駅まで行くのか。コロナの後の通勤時間帯は知らないが、とても満員電車に乗ろうという気力が湧いてこなかった。オイルサーディン缶のような電車だった。横浜方面からは品川まではトロ箱、新橋で少し減るだけだった。会社生活を通じて飽きるほど乗った路線。間違って女性に手でも触れれば即痴漢扱いされてしまう。汗臭い男性に密着するのか、と思うと、考えるだけで気持ち悪くなった。現役を引退してまで乗る必要もない電車だった。

妻の為に何とか実現しようと思ったが、彼女も又朝の通勤電車を嫌がった。もうそんな年齢層なのだった。結局日を変えてバス一本で行ける隣町の映画館の予約を取った。もう50歳夫婦割引どころか、自分はシニア割で見られると知った。字幕ではなく吹き替えになってしまったが仕方ない。芝大門の中華料理は今度車で行こう、というと彼女は笑顔を浮かべるのだった。

満員電車。雑踏。敢えて火中の栗を拾う必要もない。無理してはいけない。僕たちが必要なのは違うものだ。そう、自分に向けて語りかけていた。今日は代わりに犬を連れてカフェに行こうと思う。ウッドデッキとドッグランのある森のカフェ。幸いに今日は未だにギラギラした晩夏の陽射しは目下ない。前線が南下しているという予報もある。長く連れ添った愛犬、彼は彼で今はオムツをしている。誰もが年齢を経たのだった。カフェでの嬉しそうな妻と犬の顔を想像するだけで、嬉しかった。

こんな原稿など早く書き終えて。すぐに。行かなくてはいけない。今すぐに。僕は急いでいる。幸せが逃げぬように。

ウッドデッキとドッグランが併設されている森のカフェ。僕たちはここへ行く。

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