日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

喜びと期待を乗せて

一番列車。その日の始発列車だろうが新たに開通した路線で初めて運行される列車でもあるだろう。今時新規に開通する鉄道路線などあるのだろうか。都心の地下鉄か、全国へ伸びていく新幹線網くらいだろう。

小学生の頃、横浜駅あたりまで行くと駅の手前で国鉄京浜急行を跨いで国道1号線と15号線を結んでいた陸橋・青木橋を往く路面電車をよく覚えている。中学高校と転居して住んだ広島は路面電車王国で、引退した地方の路面電車の車両が集まっていた。京都市電も北九州市電、大阪市電もあり路面電車の博物館だった。一時期両親は転勤で富山に住んでいたがそこにも路面電車が走っていた。東京都内の都電や玉川電車、そして横浜を初めとする大都市の各地の路面電車が消えたのは自動車との共存が出来なかったからだ。都電荒川線は併用軌道は少なくほとんどが専用軌道だ。残ることが出来た理由だった。

しばらく前から気になっていたのは栃木県は宇都宮市に新たに作られるという路面電車だった。今時何故路面電車なのだろう、と疑問があった。車両に関しては吊り掛け駆動の昔ながらの車両ではなく、低床式のライトレール(LRT)と呼ばれる車輛だった。カルダン駆動で快適な連接車だった。ドイツなどのヨーロッパ諸国での旧式車両もいつしか多くがLRTに変わって行った。新しくて快適だろうが、車輛としての個性が無くあまり興味はなかった。先日行った広島も又、LRTが我が物顔で走っていて、自分はひどく落胆した。古い車両は確かにメンテナンスも難しく交換部品は手作りになるのだろう。

日光連山へ登山に行った日、宇都宮駅で「祝・LRT開業」と書かれた幟を見た。その日がちょうど一番列車の日だった。ああ、開業したんだな、と一鉄道ファンとして嬉しかった。登山の行程中、幾人かの宇都宮市民と話すことが出来た。LRTに関しての温度差が感じられた。

路線は宇都宮駅東口から東へ、芳賀郡の工業団地へと続いている。そこには大手の自動車会社の工場があり、これまで朝晩はその工場と付近の工業団地への通勤時の渋滞が激しかったという。LRTはその解決の嚆矢ということだった。多くの駅にはパーク&ライド、サイクル&ライド、バス&ライドと印があり、これ迄の交通手段との接続性の利便さを訴えていた。これで交通渋滞は消える。宇都宮市民と周辺地区の方には良い知らせだろう。一方、「誰が乗るのかな?終点近くはかなりの田園地帯だから」という声もあった。

ヨーロッパから路面電車が消えないのは何故だろう。車社会であることには違いない。古いものを残そうというヨーロッパ人気質だろうか。排気ガスの出ない交通手段でもある。日本は戦後に一気にモータリゼーションの波が押し寄せてその解決が最初だったのだろう。当時環境問題など誰も気にしなかった。

そんな不遇な時期を経てこうして地方都市とは言え新たに路面電車が出来たことは嬉しい。開業二日目だった。駅のデッキを歩くとすぐに乗り場だった。利用者さんと鉄道ファンで日曜の夜間でもそれなりの人がいた。自分も夢中でシャッターを押し、出発ベルに合わせてホームで運転士の様に指差喚呼をした。ありがた迷惑だったろう。

カルダン駆動の軽やかなモーター音を響かせて流線形の黄色い車両は東へ向かう通りに向け90度のRを描いて走り去った。街は混雑から解放され、利用者はこれ迄より早く通勤が出来るのだろう。そんな喜びと期待が乗っている。どうぞ車に負けることなく、これから市民の足として働いてほしい、とつとに思った。

路面電車開業のニュースなど生まれて初めて接したかもしれない。これから西へ路線延伸の計画もあるという。楽しみな話だ。

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