日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

暑い夏に日本一暑い町の山へ・太田市金山

陽炎がアスファルトから湧き上がる。路面にまいた水はすぐに蒸発、そんな光景が頭に勝手に浮かび上がる。それは埼玉県熊谷市であり、お隣の群馬県伊勢崎市、太田市であり、館林市でもあり。テレビのニュースでは毎夏報じられる。40度を超えるという気温の日もあるという。

そんな日に太田市の唯一の山とも言える金山に登ろうと思ったのは何故だろう。

猛暑で名にし負う上毛の町。どれほど暑いのか感じてみたい。

テレビで見た太田市ソウルフード、「太田やきそは」を食べたい。

鉄道に乗りたい。10両編成が複々線を行き交う動脈である大都会の通勤路線、2両編成が単線をのんびり行くのどかな田園路線、観光地へ向けた流線型の特急車両も走る路線。SLすら走らせる営業努力。そんな性格の異なるものがすべて交じる東武鉄道への興味。

そして家族。東武鉄道沿線には数年前に就職で家を出た娘も住んでいる。一人住まいで生活に仕事に時々不安そうな表情を示す彼女に会って馬鹿話でもして大笑いしたい。少しは彼女の気も晴れよう。

様々な「いざない」が入り交じる。前日に思い立ちさっと出かける。旅は身軽に。小さな山なら気も楽だ。

伊勢崎に向かう東武線、乗り換えた館林からは3両編成で、緑豊かな田園に単線。ここに吊り掛け駆動の車両ならより楽しみも湧くが、そうも行くまい。

大田の街は初訪問。駅前ロータリーにはパイブが頭上にあり、そこから霧が吹き出ている。駅前に自動車メーカーの大きな工場。その背後にこれから登る金山239メートルが控えている。

駅の観光案内で「大田焼きそばマップ」を入手し最寄りの店に行く。どら焼き屋を兼ねたお店は地元の方の憩いの場なのか、店のおばさんと客の間でのんびりとした会話が流れる。横浜から来たというと目を丸くして、「ゆっくりしてね」と言われる。中太に甘辛いソースは山盛りの青のりと相まって絶妙だった。どら焼きもあまりにも美味しそうで手が出た。

金山は車道も通じる。山頂直下の山城跡は戦国時代のもので小田原北条氏も居城したとも言われるらしい。山頂そのものには新田義貞を祀った神社がある。歴史に詳しければそんな武将達の風雲絵巻図が、様々な想像と懐古の想いが、楽しめるのだろう。

山頂からは北関東平野が一望だった。アマチュア無線運用は430メガFMで。横浜の友人局とは直接波での交信も厳しいが、機転のきく友人は直ぐに筑波山のレピーターによる交信を提案し、交信成立だ。

下山路は車道を外し少し異なるルートを選ぶ。ひぐらしの合唱の中を歩くと如何にも夏の午後という気配だ。

市街地に戻る。好天に焼けたアスファルトの熱さがトレッキングシューズのソールを通り越して足の裏に届く。足の裏が熱い。初めての経験だ。暑い夏に日本一暑い町の山へ。全く物好きな一日ももう夕方だが、真っ黒な雲が湧いてくる。果たして駅の構内に着くと同時に猛烈な雷雨となった。広い平野の中、雷は好き放題に、長い雷光を空に伸ばす。

ワイパー全開で走る2両編成の電車。娘の住む街まで、あと30分か。彼女はこんな雷雨の中車に乗って不安はないのかな?雷は相変わらず天空を駆ける。立派な大人に対してそれは失礼かもしれない。でも念じてしまう。「雷さんにおヘソ取られないようにな…」。

名物の暑い夏も、食べごたえのある焼きそばも、古城の山頂も、鉄道旅も予定通り楽しんだ。

さて久々に会う娘と何を食べるか。今夜もこの雨ならそそくさと部屋に戻ってゆっくりと彼女と話しが出来るな。そう思うと、夏の豪雨も悪くないものだ。

東武伊勢崎線の車窓から、スバルの工場とその奥に金山239mを見る。

「上州太田焼きそばのれん会」の発行するガイドパンフレットを手に。山に向かい駅から歩ける店として選んだのは峯岸大和屋さん。ここはどら焼きやお団子屋も兼ねています。やきそばもどら焼きも満喫。

当日の軌跡。小さな山ですが、歴史に造詣があればなお楽しめたことでしょう。