日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

頼もしき人たち

♪8時ちょうどのあずさ2号で・・・。

わたしは旅立つ。そんな歌に唄われた信濃路へ我々をいざなう中央本線信濃の国へ向かうならば特急あずさ。各駅ならば高尾駅始発の中距離列車に乗り多くの場合は甲府で終点。そこからは数分の乗り継ぎで松本行がバトンを受ける。しかし早朝に一本ある。八王子始発松本行、そんなロングランをする各駅停車が。八王子発6:35だ。

特急列車の走る路線をわざわざ各駅停車に乗る人。特急が停車する駅に行くのに自分はわざわざそれに乗っていた。それも八王子からくだんの長距離を走る各駅停車だった。特急料金の1000円強が惜しい訳ではない。たっぷり時間があるしなによりも鉄道に乗るのが好きなのだ。こんな列車に乗る人は特急が通過するような小さな駅から山登りをする人か、峠越えのサイクリストか、地元の学生か、勤め人か。そんなもんだろう。

友と自分は高原に住む友人を訪ね皆で小さな山登りをするために乗っていた。乗り換えなしの長距離電車は気楽だが八王子を朝早く出るのでそれに間に合うためには5時前に自宅を出る必要があった。向かいの座席は中学生男子二人組だった。ポケット時刻表を一人は広げ、もう一人はタブレットを手にしていろいろ相談しあっている。ピンときた。自分と同類だろう。彼が広げている時刻表の路線図は中央本線には無縁の北海道のページだった。留萌本線区間廃線になったね、と言っている。話のきっかけが出来た。ー 北海道も路線減ってこんなになったんだね。 同好の士には十分すぎる声掛けだったようだ。

ー 何処へ行くの?
ー 須原駅です。EF64を見に行くのです。
ー EF64か!貨物列車だね。僕はEF58とかEF65の500番台のファンだけど、EF64もいいね。まだ現役なんだ・・・。
ー EF58、カッコイイですね。

彼らとならいくらでも会話を続けられる。しかし甲斐路に入り甲府辺りへの勤め人で混み始めた車内での会話は取りやめた。甲府で人の大半が降りて、彼らはいつでも運転席が見られるように、と運転台に近い場所に荷物を移した。

特急通過待ちをする高原の駅で運転手さんはホームに出て外の空気を吸っていた。話しかけてみる。なんと、八王子から松本までは乗務員の交代はないんです、と言われた。八王子と松本間は200km近い。長距離の運転だ。ATSなどの仕組みが運転手氏を支えるにせよ、ご苦労な事だと思った。

青春18きっぷを利用しているという中学生たちは塩尻木曽路へ向かう列車に乗り換えるのだろう。須原駅は近くはない。日帰りできないかもしれぬ。木曽の宿で泊まって電気機関車の撮影か。なんとも素敵な事だろう。素敵な春休みになるに違いない。白髪交じり禿げ頭の鉄道ファンとしてはそんな若い彼らが頼もしい。力すら貰えた。良い写真が撮れればいいだろう。早朝の出発で200キロ近い距離を一人運行する運転士さんにもまた頭が下がる。彼のお陰で列車は安全に動いている。

多くの頼もしい人たちがいて、お陰で自分も遠出ができる。・・・短いタイフォンをならして特急「あずさ」が緩い坂道を一気に駆け上って行った。山国の風が残った。若い運転士さんは帽子をかぶり直して乗務員ドアをパタリと閉じた。こちらも車内に戻る。左手には雪の残る懐かしの南アルプスがずらりと並んだ。鳳凰三山から早川尾根そして甲斐駒へ。岩襖を鎧のようにまとう甲斐駒ケ岳の傲然ぶりが際立っている。扉が閉まりゆっくりと電車は加速する。中学生たちは特等席にかぶりつきだった。ここからは緩いカーブが続き電車はモーター音を高めて疾走する。彼らはよく知っているのだ。

自分が降りる駅まであと数駅だ。

時刻表を手にして各駅停車に揺られる。何と楽しい旅なのだろう。そんな中学生を見て嬉しくなり、話の端緒を探したのだ。

各駅停車松本行は日野原駅で退避線路に入線し特急の通過を待つ。乗務員扉を開けてホームに出てきた運転士氏と少し話が出来た。彼のお陰で列車は西へ向かっている。鳳凰三山から甲斐駒への懐かしき南アルプスの風景に見とれる。本線を特急が風と共に駆けていく。運転士氏は帽子をかぶり直して扉を閉めた。さて、出発だ。

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