日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

表現者礼賛

登山と山頂でのアマチュア無線運用。山に登れば電波が良く飛び下界の無線局と交信が多くできる。無線機を持っていれば緊急時に携帯電話よりも確実に誰かに連絡が取れる。SOSは誰かが聞いている。仲間内でもはぐれない。そんな二点から登山とアマチュア無線は親和性が高い。登山者が安全のためにアマチュア無線機を持つのか、アマチュア無線局が無線をより楽しむために登山をするのか。どちらでもよいが、そんな趣味を持っているといずれ同好の士が増えてくる。するとそれらが仲間となり果ては同人誌を作ってしまう。会員数100は越えよう「山岳移動通信・山と無線」誌はそんな仲間たちの会報だ。

初号は1986年だった。自分は2003年から2020年まで第三代編集長をしていた。57号を発行した2020年に病に倒れその責を辞した。引き継いでくださった方の努力もありこの度60号を発刊するという事で、歴代編集長のコメントを求められた。会は更に持続するだろう。自分もこれからは登山とアマチュア無線の魅力について一投稿者として「表現」をしていきたい、そんな風に思う。

ネットを通じて登山とアマチュア無線のすばらしさを未知の方に伝えたいという思いが会社員と編集長と言う二足の草鞋を支えていた。今もその気持ちは変わらない。内輪の同人誌ではあるが何かのきっかけにならぬか、と寄稿した文を下記に記したい。そこにはやはり「現代の奇跡」があると信じている。

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「山岳移動通信・山と無線」。初めて手に取ったのは第22号(1994年)だ。ローカル局から見せて頂いたものだった。山にも無線にも新人だった自分には魅力的な誌面だった。山に登ってアマチュア無線運用をする、その魅力を書いた記事で埋まっていた。多くのライター諸氏による寄稿誌だった。また味のあるイラストも素敵だった。第26号(1996年6月)から無線綴じ製本になっている。それは今手にとってもカモシカスポーツの山岳会会報誌のコーナーに陳列しても恥ずかしくないよう同人誌だった。

全ての物事には始まりがある。旧約聖書によるとアダムとイブが今の世を作ったとある。冒頭に在る創世記という奴だ。山と無線誌は初号が1986年。PDFで見る限りガリ版刷りを綴じたものと想像する。第14号(1991年)から編集長が代わられここからはテープ綴じ製本だったと思われる。いわばカストリ誌で始まり現代のカラー無線綴じ誌まで40年近い歴史があった。

第一号がまさに旧約聖書のアダムとイブと言う訳だった。失楽園ノアの箱舟バベルの塔アブラハムからヨセフ迄と発刊は続きそしてモーゼが海を割って逃れたのが13号と考えるのがハイライト的にははまりそうだ。すると14号からは少し飛ばして新約聖書の世界といえまいか。処女受胎で誕生しガリラヤ湖でイエスは沢山の奇跡を起こして多くの民衆を虜にした。そしてゴルゴダの丘で自己犠牲となり、復活後に十二使徒達と共に布教が始まり世に広まる。山と無線誌もペラから始まりわずか数名のライターによる寄稿だったがいつしか二桁のライターとなっていた。山岳無線移動運用の楽しみが流布されたのだ。

同人誌の成立要件は寄稿者がいるという事だ。では寄稿者は何故時間をかけてうんうん唸って文を書くのだろうか。楽か辛いかと問われると辛いだろう。ここでニ十世紀を生きた米国の心理学者、アブラハム・マズローを顧みたい。彼の学説・欲求五段階説。今更カビの生えたようなロジックかと思うが的を射ている。

人間の欲求を低次から高次に向け五つのピラミッド階層に分ける。①生理的要求(食欲など生理的欲望を満たす)②安全の要求(安全に暮らす)、③社会的要求(何かの社会に属す事)、④承認要求(人に認められる)、⑤自己実現要求(自分の能力でなりうる最高の状態となる)となる。

本誌の会員になることが③段階。本誌に寄稿することが④段階、そして投稿し続けることが⑤段階となるだろう。基本的な欲望が満たされて次に進み、最後に自己実現まで至る。まさに人間の行動心理学に沿っている。話が理屈っぽくなりすぎた。登山が好きでアマチュア無線が好きな人たち。言い換えるとロマンとサイエンスを、感性と理性を愛する人たち。それらを満たしてなお自分の経験や思いを「表現したい」と言う事。それが実を結んだ僅か熱さ1センチも満たぬ同人誌には現代の奇跡がある。

山でアマチュア無線を始めませんか?と世間に呼び掛けたは初代編集長・JQ1QUY・Fさん。それを引継ぎ黄金期を作られたのが二代目編集長7K1FAT・Nさん。またそれら全ては有志により手弁当で造り上げられていた事も特筆すべきだろう。多くの奇跡が偶然に、いや必然的に結びついた。2003年発行の41号を持ってNさんは引退された。手にできるクリーム色の最後の素敵な誌面だ。火を消したくない思いで自分がそれを引き継いだが、力不足でPDFネット配信とさせて頂いた。それを機に幾人かのライター氏が寄稿を止められた。手に取れないものはには魅力が無かったのだと思う。歴史ある絆を糸の切れた凧のようにしてしまったことには力不足を感じている。ネット印刷のおかげでカラー印刷の無線綴じ本が簡単に入手出来る時代となった。そんな時に自分は病に罹患した。カラー印刷された57号(2020年)発刊後の半年後だった。幸いな事にJK1VUZ・Mさんが編集長を引き継いでくださり創刊35年の火はつながった。改めて御礼を申し上げたい。

編集長は黒衣であり、誌面は投稿者によって成立している。そんな事を改めて感じているが、これから先も更に多くの新たな「表現者」たちによって「山と無線」誌が発展していく事は確かだろう。「表現者」はいつも礼賛される。その活躍の場が更に発展することを祈る。

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当会のWEBサイトのリンク http://yamatomusen.com/

ずらりと並んだバックナンバー達。テープ綴じから無線綴じへ、リソグラフでの印刷・共同作業での製本。ネット印刷の時代になりカラーの美しい本が手に入るようになった。時代と共に生きてきたと改めて思う。

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