日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

素敵なひと時

赤信号の交差点だった。横からドコドコという排気音が聞えてきた。ビッグシングルだろう。案の定やって来た。想像通りだった。

単気筒のバイクにずっと乗ってきた。中型免許を取っての最初のバイクだけは空冷二気筒のアメリカンスタイルのバイクだったが、すぐに単気筒のオフロードバイクに変えた。ホンダからスズキへ、そしてまたホンダへ。三台の空冷単気筒オフロードバイクに乗った。いずれも素晴らしいバイクだった。単気筒エンジンは一つのシリンダーが懸命にエンジン内を上下しているさまが想像できる。その鼓動が振動と音とともに体を包み、トルクとなってバイクを推進させる。痺れるような単純なメカニズムだった。自分が乗っていたのは200㏄から230㏄クラスのバイクだった。車検もなく扱いやすかった。しかし400㏄の単気筒バイクにも興味があった。オフロードもよかったが林道には持て余しそうだった。むしろ一般道をゆっくりと走れそうなバイクに憧れた。

400㏄空冷単気筒バイクと言えば相場は決まっていた。これしかなかった。ヤマハSR400だった。メカニズムもシルエットもシンプルで、当時流行っていたプラモデルのようなレーサーバイクの対極にあった。今ならネイキッドバイクというのだろうか。大人のためのバイクに思えた。ずっと憧れていたが軟弱な事に400㏄のキック始動が若干不安だった。250㏄クラスでもキック一発でエンジンがかかることはなかった。400㏄ならばデコンプでキックを踏みやすくできよう。更に冬場はチョークも引く。うまくかかるのだろうか?と思っていた。

40歳を過ぎる事に動体視力・反射神経とバイクの速度感がうまくつながらないように思えるようになった。丁度その頃海外転勤となりそれを機会にバイクを下りた。以来憧れているだけだ。今でも単気筒独特のサウンドを響かせているバイクを見るといつもときめく。昔はよく盛り場で遊んだオニイサンがすっかり歳を取り若い女性を眩しく見る気持と言うのはきっとこんなものだろうか。

交差点で止まったヤマハには若い女性が乗っていた。気負いせずにカジュアルで機能的な服装だった。待ち時間の長い交差点だった。僕は彼女にカッコいいな!と言いたかった。窓を開けて「カッコイイ!」と言ってみた。ヘルメット越しに聞こえたのか彼女はこちらを振り向いた。間髪入れずに右手の親指を立ててグーを作って彼女に振った。そしてヤマハを指さした。うんうん、とでも言うように彼女はヘルメットを軽く振った。僕の気持ちは伝わった様だった。

ドドドドという排気音と共にヤマハは交差点を去って行った。僕はその後ろ姿に、惹かれた。直ぐに後続車からクラクションが鳴り慌ててアクセルを踏んだ。日差しの強い真夏の午後だった。

ヤマハSR400.単気筒エンジンの音が後ろからやって来た。余りのカッコよさにライダーに親指を立ててグーを振った。その気持ちは伝わった様だった。