日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

図書の旅22 おいしいらーめんのおはなし ( 岡田ゆたか)

・おいしいらーめんのおはなし 岡田ゆたか ひかりのくに(株) 2004年

絵本を引き続き手に取っている。「おいしいらーめんのおはなし」と来たか。ファンとしては黙ってはおられまい。「麺巡礼」「麺修行」と称して悦に入って、好きなラーメンの為には車で数時間、あるいはそこを目的地の一つに組み込んだサイクリングや登山をするほどなのだから。絵本に出てくるラーメン屋とはいったいどんなラーメンなのだろう。

幼馴染のケンちゃんとアキコちゃん。アキコちゃんはラーメン屋「まんぷく亭」の娘さんだ。さもないことから二人は口喧嘩となり、ケンちゃんはアキコちゃんをポカリと叩き、「アキちゃんはラーメンくさいょ」と怒りに任せて言ってしまう。喧嘩して別れてしまう二人。お店は昼から忙しくなる。ケンちゃんは、アキコちゃんが怒ってないか気が気でない。謝りたいと思うが素直に言えない。アキコちゃんのお昼はお店のラーメンだ。あぁ今日もラーメンかと言い窓の下を見るとケンちゃんが心配そうに見上げている。まんぷく亭のご主人がケンチャンと遊ばないの?ときくと遊ばないもんという。しかしアキコちゃんが外に出るともう、ケンチャンはいなかった。

夜になってお父さんお母さんに連れられてケンチャンが来た。どうしてもアキコちゃんちのラーメン食べたいといったそうだ。ラーメンを口にしてこう言う。アキちゃんの家のラーメン美味しいね。、だからぼくはアキちゃんにおいもすきだよ。二人は仲直りして並んで美味しくラーメンをたいらげる。

夢のある話だった。後書きによると作者はラーメン屋をやっていた経験もあるというが「自分の店より美味しいラーメン屋があったので悔しいから店を辞めた。その店の名前は「まんぷく亭」だった」。そんなあとがきもウイットに富んで素敵だった。

このラーメンは醤油味、支那そばに違いない。豚骨背油でもない。ヤサイ大、ニンニクマシマシなども無いに違いない。などと言うのは野暮な話だ。ただ作者である岡田氏ご本人が書中に描かれた絵はまさにナルトも海苔もシナチクモそして半熟でない茹で卵も乗っているではないか。自分が大好きな「カタチ」だ。やはりそうだよな、という昭和ノスタルジーで頭がいっぱいのオジサンの話はさておいて。さて、子供の頃にこの二人のように些細な出来事で友達と喧嘩して、仲直りしたことがあったかな?と考えてしまった。

野球帽をかぶって原っぱを駆け回っていた頃、その時代にはやはりガキ大将的な男の子がいて、仲間同士の秩序が保たれていたのかもしれない。自分はたちが悪くて喧嘩と言うより人をからかっていたような記憶がある。小学校の卒業式のリハーサルだった。講堂に並んだ椅子の隣に座っていた男子がお腹の調子が悪かったのだろうか、おならをしてしまった。そして具合は更に悪くなったのか担任と共にトイレに行ったのだった。その際にあろうことか自分はその椅子を指さして「クサイクサイ」と笑いを取るように言ってしまった。その時以来その彼との間はぎくしゃくしてしまった。僕の場合はケンちゃんのように謝ることが出来なかった。なにせ翌日が卒業式だったから。

実際ラーメン屋さんの前を通ると独特な匂いがする。今でも支那そばを出す店が好きだ。そんな店は強烈なスープの匂いはあまりしないが実は麺を茹でる匂いはなかなか複雑で重層的だ。そんな香りの二重奏に吸い込まれて店内に入ると日頃の雑事を忘れてしまう。ラーメンの匂いがけんちゃんとあきちゃんをつなげとめたのだろう。自分もあの時何かつなぎ止めるものはなかったのだろうか。僕の「からかい」で、彼のプライドとメンタリティに傷をつけなかったのだろうか。お互いにすっかり消息は途絶えている。会えるならほんのひと時の邪心を謝りたいと思う。

文章も絵も同じ作者が書いて描いた一冊の絵本。手に取ったらそんな昔話を思い出させてくれた。

はて「まんぷく亭」は今もやっているのだろうか?もしかしたらアキコちゃんが店を継いでいるかもしれない。食べに行かなくてはいけないと思う。場所は?・・三毛猫が教えてくれるだろう。

映画「男はつらいよ」で寅さんが失恋して、あるいは虎屋の家族と喧嘩して旅に出る。その時にいつも上野駅の地下食堂で食べるラーメン。絵にかくとこうなるだろう。こんなラーメンが自分も大好きでならない。文を書き絵を描くとは素晴らしい作者さんだ。




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