日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

ケンパのゴール

犬の足に合わせて近所をゆっくりと歩いた。ここ数年、古い家は取り壊されてドンドン新しい家が増えている。そこにはまだ小学生のお子さんが居るようなご家族が越してきた。通りの風景は様変わりだった。

道路に線が引かれていた。工事の線ではない。そうだ、ロウセキだな。あるいは石墨。そういえばその二つで自分も良く道路に線を描いていた。それは遊ぶための物。子供は何処でも空いている場所があればそこを遊び場にしてしまう。ロウセキや石墨は近所のおもちゃ屋や駄菓子屋、文具屋で売っていた。今思うとそれで何の遊びをしていたのかあまり覚えていない。覚えているのはロウセキで道路に線や丸印を描いた事。そこでケンパをしていた。ケンケンパーパーと片足で跳んで二つの丸印には両足で着地する。そしてゴールまで飛び跳ねる、という奴だ。二歳年上の姉はパンツにスカートのすそを挟み込んでやっていた。サザエさんのわかめちゃんのようだった。姉の友達ともやったし、自分の友達ともやった。運動神経が必要な遊びで、自分は下手くそだった。しかし道路はいつも素敵な遊び場だった。

犬がさっと立ち止まった。そこにはやはりロウセキで線が引かれ、ゴールと書かれていた。ははあこれはケンパなのか。しかし今の子供たちがそんな遊びをするのだろうか。先日公民館に借りた図書を返しに行った時、午後19時ごろにも関わらずに子供たちが多く遊んでいた。しかしみんな端末に向かってゲームをしているのだった。唯一、テーブルの上でウノカードをしている子供たちが居て、嬉しくなった。返却カウンターで職員さんに話しかけてしまった。「今でもカードゲームする子もいるんですね」と。しかし職員さんはそれはゲーム用のキャラクターカードの事だと思ったらしく暫く会話がかみ合わなかった。トランプやウノですよ、と言うと、彼女もホッとした笑顔を浮かべた。そんな子供さん、本当に稀ですよ、と。

幼童でもスマホを手にする時代だ。道路のケンパの痕跡を見てひどく嬉しくなった。今時こんな遊びで、友達と戯れるのか。

犬がケンパのゴールを前にして僕を見上げる。飛んでこれを越してよ、と言っているようだった。アナタ飛びなよと言いたいが、彼は病気から回復したばかりだった。代わりに自分が小さくケンケンして白線を越えて両足で着地した。片足で跳ぶなんて、多分50年やっていない。一応、飛べた。とても嬉しかった。ゲーム機やスマホでなく、こういう遊びを残したい。今では道路に落書きなどすれば目を三角にして出てくる人もいるだろう。道路は汚いからやめなさいとも言われるだろう。

この50年で多くの物が新しく生まれ、また失われた。どちらが良いかとは一言では言えないが郷愁を越えて昔日はよかったな、と思う。それだけ歳を取ったのだろう。

誰が引いたのかケンパのゴール線。小学校三年生くらいの女子かな、と想像する。犬がこちらへおいでよと催促するので飛び跳ねて渡った。とても嬉しかった。

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