子供の暇つぶし。しりとりとはそんな位置づけだろうか。小学生の頃に登下校の時間はよく友達としりとりをしながら歩いたものだった。おしまいに「ん」がついたら負けなのだが、小学生の語彙ではたいてい十ラウンドもすればお手上げになった。
家の近所に小学校が在る。時間になると三々五々小学生が狭い道を歩いてくる。学童保育で民家を開放した途中の保育所に立ち寄る子供も多い。親が迎えに来るまではそこが遊び場だ。
学童保育の時間も終わりなのだろう。真新しいランドセルを背負った女の子が自転車を引いたお母さんと歩いてきた。こちらはゆっくりと犬の散歩をしているので途中で追い抜かれてしまった。母と娘はしりとりをしていた。いや、しりとりのようなモノだった。
た、田んぼね。 ♪田んぼ、っていいな 秋になるとお米が出来る 美味しいお米 たっぷり食べて 大きくなぁれ♪
そんな唄をお母さんが即席で適当にメロディを付けて歌うのだった。それはしりとりと言うか、娘が五十音でお題を出して母が歌で答えているのだった。こんな遊びは昔からあったのか、この親子のオリジナルなのかは分からない。
た、の次は ち だった。 ち、小さなお花ね。 ♪小さなお花 風に揺れてる 赤いお花 動いてる 花びら散っても寂しくないよ どこかでお花になるからね♪
次は、つ だろう。しりとりの唄は「ん」まで続くのだろうが、それは難問だな、と考える。全くお母さんも凄い。学童保育に子供を預けている以上は彼女にも仕事があるだろう。会社生活の中で打ち寄せる波の中を、時間を気にしながら泳ぐのは楽ではない。しかし、一緒に過ごす時間なら娘に手作りの唄、いやそれはポエムに適当なメロディがついたもの、を聞かせようというそんな気持ちが伝わった。
間違えなく娘さんはとても豊かな感受性を身に着け、人と会話をすることが好きな、音楽の好きな女性に成長するのだろうな、そう思った。
犬が曲がり角を曲がる時、親娘もまた先の路地に消えていった。素敵な、その場限りの唄が、耳に残った。