日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

系譜を見直す

老人ホームに父に会いに出かけた。老いた父親と自分の顔を共に見ながら、同行した娘はこう言った。「ますますジィジに顔が似てきたね。体つきも全て。」と。

若い頃の父はダサいという言葉が相応しぁった。髪の毛の枯れすすき、全体の体つきは柳原良平氏が描く「サントリーのトリスのオジサン」。そうよくバカにしたものだが、今の自分の頭はぺんぺん草に近い。体形も然りだった。仕方ないのだ。血縁だから。写真でしか見たことのない父方の祖父は父に又そっくりだった。祖母に至っては生き写しだった。間違えなく代々と系譜がつながっている事を知る。

ハイドンが名オラトリオ「天地創造」を書いたのは、ヘンデルのオラトリオに心打たれたから。ブラームスロ短調にこだわり20年以上もの歳月をかけて交響曲第1番を書き上げるのに時間をかけたのは、同じくロ短調ベートーヴェンの5番「運命」を強く意識したからと言われる。ブルックナーの壮大な音の大伽藍に触れてそこにバッハの影響を見る事は難しい話でもない。

自分にやすらぎと静かな興奮を与えてくれる音楽。世に作曲家は沢山居るが自分はそのごく一部しか聞いていないだろう。そんな自分が好んで聞く範囲だけの作曲家でもどんな時代を生き、どのように関連しあっているか、どんな系譜をたどったのか興味がある。手持ちの書籍で調べてみようと思い立った。表にしてみて何かが見えぬか。

横軸の底辺に世の中の出来事を置いてみた。上に自分の聞く範囲での音楽を時代別に積み重ねてみる。

表にする前からわかってはいたが、自分はドイツ・オーストリア系の音楽ばかり聴いている。僅かにフランス音楽が追加される。しかしこの表にはドボルザークシベリウスも、ロシア系作曲家もまたショパンもリストも入らない。片手落ちの感は否めないが聴いていないのだから挙げられない。

さて愛する作曲家達は整理した。何らかの関係性が時系列表に見られるだろうか。残念ながらなにも浮かばない。バッハ以前にはルネサンス期の音楽となり、彼がバロック様式を完成させたのか、と考える。技法として大成させた対位法が、その後の音楽に大きな影響を残したのだろう。教会オルガニストブルックナーはバッハの技法を生かして神々しいまでの大曲群を1800年代後半に作った。それは国を越えて1900年代まで生きたサン・サーンスにも見て取れる。

モーツァルトはオペラも積極的に作りミサ曲やオラトリオなどの宗教音楽中心の音楽界に一般大衆向けの歌謡性を導入したのではないか。そしてベートーヴェン以降に大規模な交響曲が作曲されるようになった。しかしその初期はモーツァルト風な曲もある。その意味でモーツァルトベートーヴェン音楽史ではマイルストーンなのだろう。そのベートーヴェンを越えようとブラームス交響曲を作り、同時代のブルックナーへ、遅れてマーラーも続いた。ブラームスは師匠であるシューマンの妻クララに横恋慕した。それがあの憂愁の音楽の源になっていると想像するならなんとも人間臭くて面白い。ベートヴェンに始まり、シューベルトブルックナーマーラーと、主たる交響曲を9曲作曲したのは偶然なのか、つねにベートヴェンがベンチマークだったのか。

現代でも人気のオペラ作曲家、ワグナーとベルディが同時代を生きたとは初めて知った。ワグナーは戦時下ドイツの国威高揚の音楽として使われたがベルディはイタリアで同様な扱いを受けてはいない。しかしそれはワグナー死去後の話でもある。多くの英雄伝説や神話伝説をドラマティックに歌物語にしたワグナーの作品は、まこと当時のドイツのプロパガンダに相応しかったのではないか。

欧州での出来事との関係は他に何かあるか。表の最下段には欧州での大きな出来事と思われること並べた。ヘンデルはドイツ生まれだが英国に移りそこで高名を得た。その時期には英国はイングランドスコットランドが併合されて一国をなしていた。安定した国家で時の国王と良好な関係を持ったことが彼の音楽活動に与える影響があったのかもしれない。フランス音楽の有名どころはフランス革命後に生まれている。しかし色彩感あふれるフランス音楽がなぜ生まれたのかは分からない。やや無理やりだが全体の規律よりも個人の自由を尊重するという国民性に帰結させたくなる。普仏戦争が作曲家たちに与えた影響はあるだろうか?ブラームスのオーケストラ付き合唱曲「勝利の唄」は普仏戦争でのプロイセンの勝利を讃える歌だ。そのプロイセンブラームスの死後20年で亡国した。

漠然とした知識も全体のほんの一部に過ぎないが表にするとわかりやすい。血のつながりはないが、音楽は先達や時代の様々な影響を受けながら進化している。クラシック音楽の範疇に入るのか分からないカール・オルフ世俗カンタータカルミナ・ブラーナ」などではもはやリズムやフレーズの点で明らかにこれ迄の流れとは異なるものを感じる。これも進化だと思う。

200年も300年も昔の音楽を聴いている事になるが聴けば聞くほどに発見と喜びがある。それぞれの時代を生きた作曲家たちは後世に残る音楽を作ってくれた。先に書いた聞き漏らしている作曲家の作品に触れるのも今からの楽しみだろう。一通り聞いてこの表を更新し系譜を見直すのが楽しみでならない。

エクセルに作曲家と年代を並べてみた。もう少し何かが見えるかと思ったがそうでもない。しかし頭の中で散らばっていた情報が一枚に纏まると気持ち良い。知らない世界にも足を入れもっと楽しめそうだ。

参考図書:「名曲大辞典」音楽之友社昭和60年刊:1400人もの作曲家が紹介されている。自分はほんの一握りしか知らないが。だいぶ昔に手に入れて座右の書としてきた。

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