バス通りから自宅へ戻る道すがら、とある民家の玄関脇です。
「ハヤトウリです。ご自由にどうぞ!」
という手書きの看板とカゴに入った緑色のウリがたくさんありました。かごの横には持ち帰り用のビニール袋も置いてあります。また看板には、「豚肉と煮ると美味しいです」とレシピまで書いてくださっています。ご近所さんですが少し距離も離れており、どのようなお方なのか面識もないのです。
しかし、これを頂かないわけには行かないでしょう。レシピまで書いていただいているのですから。
恥ずかしながら、ハヤトウリなるウリは初めて知りました。スーパーで見かけた記憶もありません。小さな棘のあるクリームグリーンのウリ。ちょっと面妖。いやグロテスク。
「あら、ハヤトウリ、美味しいらしいね」
と家内は物知りでした。流石に家事の先輩です。
ネットでレシピを検索し、豚バラとの味噌炒め という奴にチャレンジです。ハヤトウリはピラーで例の面妖な皮を剝きます。つるつるになった彼はグロテスクなリンゴのよう!しかし触ると表面はヌルヌルしていて、やはりタダモノではありません。
余り嬉しい感触と外観ではないのでさっさと厚さ5ミリ程度にカットして少し塩もみでアクを抜きます。その間にフライパンでサラダ油をにんにくと唐辛子で風味づけ、そこに豚肉投入。豚肉に火が通った頃、ハヤトウリからは水分が出てくるので、それを絞ってフライパンへ。
カボチャや冬瓜とは違っていました。薄切りしたこともありますが直ぐに火が通るのです。そこに味噌、酒、醤油、みりん、砂糖からなる調味料、それらを事前にボウルで混ぜ合わせていたものを投入。
ジュ~ッと良い音と香りがして、完成です。
「美味しのね、ハヤトウリ!今度植えてみよう」
例の通り、調子だけは良い家内です。
住んでいる方も知らない、当然お話もしたことない、ただの通りすがり。農産物の無人販売所の、無料版。どんなお方が住んでいらっしゃるのだろう。
向こう三軒両隣。そんな言葉も都会生活では死語に近い。何より近所付き合いが面倒くさいというのが都会の感覚か。しかもこのウリで腹を下したとクレームを言うような輩すらも今なら居るでしょう。
しかしあのように、自然の恵みを皆さんに味わってもらおう、という純粋な施しの気持ちは素晴らしいし、それが残っていることに胸が暖かくなったのです。
世の中、悪いことばかりではありませんね。
お礼に何をしようかと考え、下手くそな絵手紙でお茶を濁すこととします。差出人名は記しません。自宅ポストに投函した拙い絵に、少し喜んでもらえたなら、嬉しい。感謝の輪です。
(2011年11月3日・記)