日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

夏の子供たち

スーパーに食材の買い出しに出かける。

レジ前の一角に花火コーナーがある。あぁ今でもこんな「夢の袋」があるんだな。

子供の頃、各種の花火が詰め込まれていた花火の袋は、まさに「夢の袋」だった。それは自分たちの二人の娘にしても、そうだったに違いない。夏になると必ずそれを買い、小さなベランダで花火をした。鮮やかで、ときに柔らかい、花火の放つ光の中で、娘たちの顔は嬉しそうだった。あの頃はそれに触れたくて、一生懸命だったな。

最後に彼らと、花火をしたのは何時だったのだろう。それはもう15年前か?いや20年も昔の話なのか?

この夏は、スーパーに来て花火コーナーを通ると、もうそれを楽しまなくなった娘たちの事を思い出してしかたない。

今日もコーナーは人気だった。涼しそうなワンピースを着た、丸顔の女の子が嬉しそうにしている。ああ、小学校3年生くらいかな。

娘たち、何を今してるのかな。長女は昨年結婚した。次女はこの春に就職で家を出た。その少し前に自分は病で入院して、退院して戻ってきたらもう次女は家に居なかった。がらんどうになった彼女の部屋は、彼女が置いていった幾組かの服が、少し寂しそうに、人待ち顔でハンガーにぶら下がっているのだった。ぬいぐるみ達もやや窮屈そうにクローゼットの中で座っている。

・・・全ての変化が、早すぎた。自分は大丈夫、彼女たちはもう立派に自分たちの道を歩んでいる。そう思う自分。しかし、今日の小学生を見て、なんだか切なくなった。

もうあの頃は戻ってこない。めったに連絡してこない二人の娘たち。結婚してまだ時浅い長女は仕事と家庭の両立で忙しくしているのだろう。次女は新しい環境の下、一人で、仕事を覚え生活しているのだろう。 もう、貴女たちは自分の道を持ち、歩みを進めるだけだ。自分の出番はないな・・。

彼らの幸せを思うけど、自分はキミらにとって何だったのだろう。良い父親だったかな? 自分にはわからない。ただ、貴女達の幸せを祈ることしかできないよ。

嬉しそうな小学生は母親と共にレジに向かった。ああ、今晩あの花火が、あの家のベランダを、庭を彩るんだな。花火を見る子供たちの嬌声が浮かぶ。それは楽しくて仕方のない夏の姿。自分にはとうに去ってしまった夏の姿。

大人になった娘たちよ、ただただ、貴女達も幸せであればいいんです。そしていつか歳を取って、そういう貴女達も今の自分と近しい思いを持つことがあるかもしれないね。そんな時に、ふと僕を思い出してくれれば、自分はそれで幸せだな。

夏の子供たちは、いつも輝いている。深い愛を受け、毎日が楽しい。その笑顔に負けない程、彼女たちにはすばらしい未来があると、そう思う。いや、でも、夏の大人だって、同じだね。そうありたいと、思っている。

スーパーを出て風にあたった。あれほど暑かった昼間も、夜間は熱気を残していはいるが過ごしやすい。花火を手にしたあの子の嬉しそうな笑顔が頭に残る。・・そう、とにかく一生懸命だった熱い夏も、いつしか過ぎていく。暑さもやがて、消えていく。

さて帰るか。

(2021年8月10日・記)

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