日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

主砲の沈黙

軍艦の大砲が戦争を左右したのは日露戦争までだろうか。太平洋戦争では46センチ主砲を備えた史上最大の戦艦大和も武蔵も、4連主砲塔のプリンス・オブ・ウェールズも、また12本の36センチ砲を載せたアリゾナもその威力を見せずして海の底に沈んだ。大艦巨砲主義はとうに終わった。今の戦いは大砲によらない。ヨーロッパ東部で未だ続いている不幸な戦争も榴弾砲や野砲の打ち合いよりも衛星や情報戦で敵を探りドローンでの地道で精密な攻撃に移行しているようだ。

戦争はあらぬ話だが、しかし打ち上げ花火のように主砲がドカンドカンと打つと気持ち良い。野球の話だ。

野球好きな娘夫婦の誘いもあり家内と四人で横浜スタジアムにでかけた。地元球団横浜ベイスターズとスワローズのデイゲームだった。野球場など30年ぶりかもしれなかった。

自分が熱心な巨人ファンだったのは小学生までだった。主砲である長島と王の活躍は横浜の小学生を虜にした。また高田、柴田、末次、土井といった脇を固める陣営も分厚かった。堀内は絶対的なエースだった。中学入学時に親の転勤で広島に引っ越したがそれは広島カープ初優勝の年だった。街は赤ヘル大フィーバーで、自分はその街で初めて疎外感を知った。巨人ファンは広島では異邦人だった。しかし思春期の芽生える時期には野球など些細な話だった。何時か広島も自分にとって大切な街となっていた。

今では特に熱中して野球を見る事はない。夜のスポーツニュースを流し目で見る程度だ。横浜ベイスターズは自分にとっては今でも川崎の大洋ホエールズだった。小学生の時初めて行ったのがホエールズ戦で場所は川崎球場だったからそんな印象が残ったままだ。今日に限ってベイスターズを応援したのは50年近く横浜市民だったからだった。それでも今日メジャーで活躍する選手の規格外の働きはやはり見ていて力が貰える。そんなメンツが揃った本年のWBCもまた楽しかった。

WBCの主軸打者がベイスターズとスワローズでそれぞれ4番に居る。彼らがドカンドカンとホームランを打ったなら、心のもやもやも、心配の多い昨今の日々も、それらが気持ちよく粉砕してくれるだろう、自分はそれを期待していた。

どうしたことだろう、今日は両軍の主砲はともに沈黙を守ってしまった。代わりに脇を固める打線の活躍もありワンサイドゲームとなった。勝ち負けは関係なかった。試合は一方的だったが久しぶりのスタジアムは大きく応援も熱狂的で圧倒された。ゆるキャラ風なチームマスコット、チアガールズのダンスタイムや観客参加型のアトラクションなど、回の狭間には観客を飽きさせない工夫もあった。

沈黙の主砲は残念だったが満員御礼を掲げた大観衆のざわめきは日々の不安をいっとき忘れさせて、どこかに飛ばしてしまった。集団の持つ熱狂的なエネルギーに圧倒された。目論見は外れたが少し気が楽になったのかもしれなかった。

ゲームが終わり、娘夫婦と中華街に出て食事をした。四川料理は少し辛かった。すると胃の中が刺激され、ドカンドカンと消化器官が脈打つのが分かった。主砲は胃の中でようやく沈黙を破った様だ。少し遅かったが、これならしばらく自分は大丈夫だろう、そう思うことにした。

両軍の主砲は残念ながら沈黙していたが、スタジアムの熱気が自分に力をくれたようだった。

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