父親が昭和40年代に買った家は横浜市でも奥地にあった。相鉄線の駅もあったが家の近くの団地から横浜駅までの直通バスも走っていた。不便な場所だったが「地下鉄が走る」という話もあったらしい。しかし地下鉄は来ることもなく今もそこは不便な地だ。父はそこは売り払い、便利な街へ引っ越した。今その辺りを走っても狭い国道はそのままで渋滞も解消されずに、何の変化もない。強いて言えば最寄り駅から相鉄線が分岐しJR・東急との相互乗り入れが実現し、しかけていることだった。しかしその駅からもまだ遠い昔の家の周りは、少し寂れた風景になっていた。
そんな昔話を思い出したのは、数か月前のサイクリングで期せずある風景を見たからだった。尾根道に「中央新幹線の非常口を造っています」という工事立て札と大きなゲートがあった。リニアモーターカーの路線か。工事は確か南アルプスを縦貫する辺りで頓挫気味と聞いたことがある。強固な岩盤・破水帯、そんな技術的な障壁か、自然に対する影響を懸念した行政からの申し出なのか、詳しくは知らない。東京新大阪はいまでも2時間半程度だ。それ以上の便利をどれほどの人が望んでいるのか分からないが、新駅予定地の近くである甲府市南部や飯田市では何が起きているのだろう。地価上昇などあるのか。
大きな工事現場を見て思った。決まった工事は着々と進めるのか。しかし飯田出身の職場の同僚によると「通るようだけど何も具体的な話が無い」と言う事だった。都留市あたりではもう二十年以上前からリニア実験線が山を貫通していたので、もう少しなのだろうか。
未開通の鉄道ならまだある。なんでもチロルの高原に長閑な軽便鉄道を作る計画らしい。その民営鉄道のオーナーによるとすでに車両は購入し駅舎の資材も確保しているという。話によるとオーナーはヤパーニッシュ(japanisch)で、ドイツに住んでいた頃にかの地に魅了されたという。そこに762㎜の小さなレールがあり、蒸気機関車が牧場を縫って小さな客車を引っ張る風景が浮かんだという事らしい。観光鉄道だろう。そういえばオーナーはワルツとポルカが、特にヨハンシュトラウス2世の「ポルカ・観光列車」が好きで、なんでも車内でそれを鳴らす計画らしい。
ただチロルなのかバイエルンなのか、それも決まっていないという。工期の開示予定も見えないがどうやらオーナーは先日トウキョウ・ギンザという地の鉄道「模型店」で9㎜フレキシブルレールを2セット買ったらしいから、計画は頓挫していないようだ。計画開示したとたんあたり一帯の地価が不当に上昇したりしないだろうか。
いや最新の話だと何処かの家の書斎にくだんの高原鉄道は開通するらしい。準備している車両は小さな蒸気機関車と客車で、もう15年以上も前にデュッセルドルフやライプツィヒと言ったドイツの街の「模型店」巡りで購入したらしい。小さな鉄道なのにそんなに必要なのか、他人事ながら心配だ。
自らに問う。オーナー、いつ開通させるの?色々やりたいことあるらしいけど、機関車の電気接点が錆びて動かなくなるよ。やる事整理したら?
・確かにこれが高原鉄道の室内を流れたら、いかにも素敵。心弾むヨハンシュトラウス2世のポルカ「観光列車」。92年のニューイヤーコンサートでのカルロス・クライバーの素晴らしい映像があったのだが削除されたようだ。しかしこちらも楽しい演奏。オトマール・スイトナー指揮シュターツカペレ・ドレスデンにて。https://www.youtube.com/watch?v=8qskEX6BgZ8