準備できたよ。
風邪を長引かせてしまい、取りに行くのが遅れた。
広い谷。小さな郵便局。昼寝をしていそうな食料品店。狭まってくる山すそ。高まる沢の音。お土産に、と思った国道の和菓子屋は閉まっていた。手ぶらで申し訳ない。
大きな屋敷だった。車をバックで進める。農機具とトラクターの倉庫に、友人はいた。あ、完璧な農家のおじさんだな。
オーライ、オーライ。
待ってたよ。そう、米袋が二つ。もう一つは息子の家に。
よく灼けている。小さな手術とは聞いていたが、どうやらその通りだったのだな。
高原に移住して初めてのパート仕事。ある観光施設。そこでのお客様の誘導と警備。そこにいらしたのが彼だった。僕より五歳は年上に思えた。サバサバとして、話していて心地よい。物事の説明もロジカルで分かりやすい。
案の定。理系の人。このあたりの電子機器メーカーの製造技術の方。農家さんとの二足の草鞋。
文化系の自分にとって、理科系の人は面白い。考え方もアプローチも違うから。よい観察対象になる。理論か感情か。
その方はしかし、感情の世界にも生きていた。何とも素敵だ。
飲んで話そうよ。
そう、缶コーヒー。
彼のお米を食べるのは2シーズン目になる。農協への卸値で売っていただける。
米余り。そう聞いていた通り。値段は昨年よりも安い。もちろん、スーパーで買うよりも、やはり安い。しかも山梨のブランド米。
炊き上がりが美しい。白というか銀というか。モワモワと湯気。粒立ちが現れる。なんとなく、一粒ごとに彼の顔が浮かぶ。大きな上背、広い背中。笑い声。
生産者の見える農産物。スーパーの一角によくある。農家さんのイラストの描かれたビニールに巻かれて、オオタニさんの作るほうれん草、と。
あれだ。
しかし、米粒に顔がついていたら、怖い。あくまでも想像の話。
だって、オオヤマさんの米は、とても美味しいのだから。
三十キロの米袋など持ち上がらない。
ヨイショでやろう。二人でな。
ドシンと車が揺れる。
再来週でしたよね、ゴルフ。
そうそう、飛ばそうな。
残念だけど、OBとファーを避けるのに精一杯ですよ。
バックミラーで小さくなるオオヤマさん。
彼のコメか。うふふ。
