日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

山里の恵み

ハイキングでも良い。里山散策でも良い。長閑な風景の中を歩いてみよう。するとよく目にする。籠と料金箱だけを置いた「無人野菜販売」コーナー。多くは畑の一角であり、高台に位置する農家への入り口にあるだろう。プラスチックのコンテナであり手製の篭であり。そこに獲れたての野菜や果実があり、その横には小さな料金箱がある。外国人がIncredibleと叫ぶ無人販売など日本人以外なら成立しないシステムだろう。野菜や果実が盗まれても、更に料金箱が破壊されてもそれを防止する仕組みもない。それがしっかりと機能することを自分たちは誇りにすべきだと思う。

そんな恩恵、昔は素通りしていたが今は楽しみの一つになった。ルート上にそれを発見すると買うだろう。ここしばらくは神奈川県の里を歩く機会が多かった。南西になる湯河原や真鶴辺り、そして渋沢丘陵南面辺りはミカンが多い。大きく広がる相模湾をバックに、緑色の葉の元に熟れたオレンジ色のミカン。オレンジと緑という湘南電車のカラーリングはまさにこの湘南の地から生まれたのだな、とよくわかる。

ある秋の日、里山散策だった。そこにはミカンが七、八個で一袋になった籠があった。妻はそれを迷わずに買った。二百円は木箱に入れる仕組みだった。酸味が強く甘さはスーパーで買うミカンより弱かった。しかしそれがかえって野趣があった。その数週間後、今度は登山の下山ルートだった。カボスがあった。大サイズは三個で、小サイズは六個でともに百円。大特売と言える。なによりも農家さんの手書きだろう紙に書かれた値段表が素朴だ。さらにその横に「ジムにしたらおいしいよ」との手書きもあった。ジムとはジャムだろう。何となく書き手さんの容姿をも想像できる、そこが嬉しかった。登山は三人連れだったので六個入れを買い二個づつ三人で分けた。

さてカボスとは自分にはなかなか馴染みがない。剥いて食べるわけにもいかないだろう。同行した二人の女性に使い方のヒントを頂いた。ジャムも良いだろうが「すりおろして醤油を加えてポン酢にするとおいしいですよ」と言われた。刺身にもってこいだという。

早速帰宅した。妻はすぐに皮をむきすりおろした。皮は早くも茹でられていた。柑橘類の匂いで狭いキッチンは満たされた。何とも幸せな香りだった。2個だと中途半端すぎる、と言われた。そこで冷蔵庫にあった「レモン果汁」を加えるようにした。半日後、ジム、もといジャムと、ポン酢が魔法のように出来上がっていた。これがとても美味しいのだった。ジャムはバゲットに塗った。朝食のヨーグルトに混ぜた。ポン酢はまずはサラダに使った。すっきりとして雑味なし。オリーブオイルを加えてカルパッチョにも良く似合うだろう。

この味の構成要因を考えてみる。恵み。善意。知恵。その三つだと思った。三位一体となりそれらが三方に乗っかったようなものだと思った。どれが一つ掛けてもこの味は出まい。山里の恵み、人の善意、そして女性の知恵と経験。自分は普段全く意識しないそんな物に触れて生きている。どうやら生きているのではなく、生かしてもらっている、というべきだろう。全くありがたく山麓の恵みを戴くのだった。

山里の無人販売所。ありがたくポン酢とジャムにした。恵み・善意・知恵。三つが一体となって出来た味。美味いに決まっている。

緑色の葉とミカン。湘南電車の色のモチーフが良くわかる。このミカンは甘くはないがその分野趣があった。これもまた二百円で一袋。ありがたく頂いた。

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