日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

暖かい部屋

椅子の上も良いですよ、そう言われるのだった。さすがに迷っていたがそう言うのなら、と椅子に抱き上げた。カラビナが壁に掛かっている。もちろんそれはクライミングの為ではない。

人口六千人程度の街。そこにトリミングショップは何軒あるだろう?ゼロでもおかしくないのだがそうでもない。地図で調べると三軒ある。隣町もいれてあるいは半径十キロとしてみるともう三、四軒は増える。動物病院になるともっと増える。馬の病院まである。この高原一帯は犬が多い。地元の家に飼われている犬は柴犬が多い。リゾートエリアに足を運べばレトリバーやボーダーコリー、シュナウザー、トイプードル、沢山歩いている。都会からの移住者、そしてリゾート客。犬も家族なのだから一員としてこの地にやってくるのだった。

森の中には幾つものカフェやレストランがある。ターゲット層は観光客だろうか。その多くは値段も都会なみだ。五月連休や夏などは避暑客で街は溢れる。レストランもカフェも満席だ。しかし深い森の下、ウッドデッキで珈琲を楽しみ、あるいはフォークとナイフを使う様は絵になる。

新参者の我が家も六歳のシーズー犬をつれて時折散歩に出かける。ウッドデッキはほぼすべてがペット連れにも開放されているのだからありがたい。幾つかの気に入ったカフェやレストランが出来た。季節は巡る。十二月の声を聴いたらとても外で寛ぐという雰囲気も無くなった。午後早くから気温は一気に落ち込む。

そこはベトナムやタイ料理のレストランだった。犬猫OKと書かれていた。室内に犬が入れる店はこの街ではここが初めてだった。床には何匹かの犬が飼い主のテーブルの下で丸くなっていた。猫は店主のもののようでパクチーナンプラーの風味が漂う店内を気ままに歩いていた。フォーもバインミーも、パッタイトムヤムクンも。寒い中暖かい料理を堪能した。我が家の犬は大人しく床に伏せていた。雨の降る日はキャンプ場にある森のレストランに行く。美味しいジャンバラヤがある。コーヒーとマフィンのカフェもある。犬は大人しいまま置物のようになっている。たまにはお店でイタリアンを食べたい。そんな話になった。何度か食べていたレストランだった。店内にも犬が入れるとは知らなかったが実際に入れた。

高原の森の店はどれもお洒落だ。カフェ、イタリアン、フレンチ、本格中華、焼き肉屋、バーガー、テックス・メックス、北欧料理、創作ダイニング、きりがない。犬が多く住み、また、遊びに来るエリアなのに犬はやはり戸外のテーブルなりデッキだった。近所では目下この三軒のレストランと一軒のカフェしか犬の入れる飲食店は見つからない。これだけ犬と親和性の高いエリアなのだからもっとそんな店があれば良いのにと思う。犬が苦手な人もいるのかもしれない。保健所の指導なのか申請でもやらなくてはいかないのか、それは自分も知らない。冬が明けたら春が来る。再び彼らはデッキや戸外の椅子で丸くなるだろう。次の冬が来た時にもう少し犬と店内迄入れるレストランがあれば嬉しい。設備投資など壁に着けるカラビナ、水のトレイ、あとは応急のマナーシートやテッシュくらいですむのだから。店内でもOKとすると他店との良い差別化になり来客者も増えるのに、そんな風に思う。多くの犬は店の中では粗相をしないし吠えないのだから。

カラビナにリードを付けた。美味しそうだな、ボクも食べていいの?そう彼は言いたそうにテーブルの上を見ている。戸外には木枯らしが吹いているが彼のいる空間はありがたいことに暖かい部屋だった。

これ、食べていいの? いくら部屋が暖かいとはいえ、それは駄目だよ。そんな会話があったのだろうか。