日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

近所の異国を走る 鶴見線から羽田まで

鶴見線。都会の中の、工業地帯の中のローカル線、と言われています。工場の始業と終業時間以外は確かに本数も少ないです。本線に加え大川支線と海芝浦支線。一昔前はチョコレート色の旧型国電も現役でしたが、今は103系の時代も去り205系が走っています。味気ないのです。しかし、沿線風景は独特です。工業地帯、倉庫群、運河、釣り宿、古い家・・そんな中に細いレールが続いています。上記の支線へ入っていく際の急カーブ。短い車両編成。分岐駅の複雑極まる構内、夕日に光るレール群・・・・。鉄道ファン的には胸が躍る路線です。

同じ町に住むランドナーに乗る友人とサイクリングをしました。行く先はやはり鶴見線の織り成す風景を見る事、そしてその終点から程近い羽田空港へ行き飛行機を見る、そんなルートでした。また、鶴見線の終点・浜川崎は東海道貨物線と混じり、その貨物線は多摩川羽田空港を海底トンネルで通り抜け東京貨物ターミナル駅へと結んでいます。その海底トンネルの入り口にも興味津々でした。

そんな事で、友人と私の乗る2台のランドナーで臨海工業地帯を走りました。総行程30キロを超えるだけの小さなサイクリング・ポタリングです。

走り始めてすぐ。沖縄から移住してきた方が多いエリアです。沖縄料理店や物産店も多いのです。それを抜けると産業道路という本当に工事や運搬のトラックばかりでいつも地鳴りのような重い振動ばかりする道路に出ます。味気ない産業道路はパスして更に海側に行くと鶴見線の沿線に出ました。目の前の大きな工場の専用駅と思える小さな無人駅。駅前には夕方だけの開店だろうという少しくたびれた居酒屋がぽつり。

できるだけ鶴見線に沿って路地裏を走るのです。鶴見線の車庫には2両編成の車両。大川・海芝浦支線運行専用の車両です。運河が沢山あります。釣り船が浮かびそのわずか数メートルを上を水面をなめるように錆びた鶴見線の鉄橋が渡ります。その運河の沖合には化学薬品のタンクが遠望されるのです。しばらく水面を見ているとやがてゴトリゴトリと乗客もまばらな三両編成の列車がゆっくりと走り去るのです。・・・ああ、気が遠くなりそうな風景です。

大工場の敷地はやはり大きく自転車のルートもそれにつられて迂回です。再び小道にはいります。独特な、何と形容すればよいのかわからない、しいていえばプラスチックを燃やした時の匂いをもうすこし「つねった」ような臭気が通りを満たします。プラやポリカの成型工場なのでしょうか・・しかしそんな臭いに運河からの潮の香りも混じり、もうここでしか味わえない空気感に包まれるのです。道に時折現れる古くからの家や倉庫は古く風化し倒壊しそうなのもあり、街全てが薄汚れて疲れ切っている。これらの全てすべてが頭の中で混ざり合い、やはり何処かへトリップしそうな独特な感覚を味わうのです。鶴見や川崎の臨海工業地帯独特の風景は間違えなく自分には「異国」です。

鶴見線の終点は「浜川崎駅」。鶴見線サイクリングは何度もしていますがこの駅は初めてでした。浜川崎駅は同時に、南武線(支線)の終点でもあります。さて、両者がどんな駅を形成するのか、これも興味の的でしたが、単に道路を挟んでそれぞれの駅があるだけ。南武線の支線には多摩の丘陵をトンネルで抜けてきた東海道貨物線の長い貨物線も並走するのです。そのメインの線は高架で緩いRを描き構内の北側をかすめます。「EF210・桃太郎」に牽引された長い編成が轟音を立てて通り抜けます。一方貨物線の支線が伸びてきています。ここは同時に貨物の入れ替えを行う操車場にもなっているのです。必然的にレールが複雑に交差して、それを見るだけでふたたび自分の血圧は上昇するのです。そんな中踏切警報が鳴り、ハイブリッドディーゼル機関車DD200が単行でゴトリゴトリと悠然と走ってきました。あぁ失神寸前です。

時間感覚が失われていたようです。そう、その東海道貨物線の線路が羽田空港横の東京湾にトンネルで消えていく箇所を見なければいけません。これは容易でした。京急大師線の終点「小島新田駅」。ここにかかる陸橋に上がれば丁度そこに海底トンネルの入り口がありました。

自分の体内の鉄分はもう飽和しきりお釣りが出そうです。あまり鉄分成分の濃いお方ではない(つまり普通のお方なのです)友人には悪いことをしました。

ここからは今日の最終地点。羽田空港。といってもターミナルではなく、天空橋で飛行機を見るだけとなりました。大師橋を渡ると路地裏にはつくだ煮やがあったりと、やはり多摩川らしい雰囲気のある通りです。すぐに鳥居が見え、左手奥には駐機している767が見えました。

近づくともっとたくさんの銀翼たち。目の前に駐機していた767は「ブルーのトリトン」。その奥には「赤の鶴丸」。767の他にも777も、737も、787も。そしてもう引退した747も。様々な航空機会社で本当にお世話になりました。

コロナによる減便で銀翼達の出番は減っているのでしょう。しかしいずれまた世界の上を飛び回り私たちを「異国」に運んでくれることでしょう。羽田の持つ雰囲気はその意味ではやはり「異国」。異国への出島、玄関なのです。

鉄成分と銀成分を存分に満喫できたので、家路につきます。自宅から往復30キロをわずかに超えるだけで「近所の異国」に出かけられます。途中停止の多い走りでしたが、付き合っていただいたランドナー仲間に感謝です。

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工業地帯の運河に釣り船屋が。

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鶴見線の車庫には支線用の二両編成が留置されていた

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満潮になればなおも増えるだろう運河の水面に近く、錆びた鉄橋。その奥には何かのタンクが。工場地帯の運河の風景には少し眩暈を覚えるのだ。

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鶴見線南武支線のともに終着駅、浜川崎。道路を挟んだ両者の無人駅舎は接することなく、それぞれが暇な時間帯。まるで昼寝でもしているようだった。

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無数のレールの交錯する浜川崎駅の構内に単行のディーゼルが入構してきた。見慣れたDD13でもDE10でもなく、今はハイブリッドディーゼルの時代で走行音も静かだった。

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小島新田駅の高架橋。東海道貨物線の海底トンネルの入り口が口を開けていた。

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多摩川を越えて天空橋に出た。トリトンブルーの銀翼が休憩中だった。

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小さな旅の終わりは旧東海道鶴見橋関門跡地にて。ランドナーはゆっくりと旅をする自転車。二台とも小さな旅を楽しんだようです。