もうそろそろすっかり冬模様だ。ちらちらと細かい白いものが舞っている。背景の山、さすがに3000m級の峰々は冠雪した。前衛の山は数日前の朝は真っ白だった。しかし翌朝は雪は消えていた。しかし今日はまた小雪が舞った。こんな風に少しづつ変わっていくのだろう。
職場は深い森の中に在る。ブナの混じるアカマツの森だった。そんな中を舞う白く小さな花びらを見ているとあながち冬も悪くないな、そう思うのだった。
職場の森に佇んでいるとこんな季節なのになんだか音が弾んでいる。小さな鳥が木々の間を飛んでいるようだ。おや、橙色がかった茶色い小鳥だ。ジョウビタキだね。ロシアは住みずらいのか、越冬してきたか。彼は小さく羽ばたいてまた木を移る。彼が飛び去ると枝が揺れる。尤もそのはるか上でアカマツが八ケ岳から吹いてくる冷たく乾いた風で悠然と揺れている。
忙しそうな彼は行ったり来たりしている。その様を見ていると頭の中に旋律が浮かんで来た。やはりその音も行きつ戻りつだった。楽天的な活発さがあった。この季節だからインフルエンザやコロナの罹患防止で戸外でもマスクをしている。それが幸いした。頭の中で浮かんだメロディを小さく口ずさんでいたが誰にも聞こえない。ジョウビタキの動きを見ながらだんだん自分の中で、口ずさむ旋律が展開してくのだった。
家に帰ったら聞いてみよう。半年近く聞いていなかったかもしれないから新たな発見もあるだろう。
PCを立ち上げた。えーと、ビゼーだ。小澤征爾指揮で水戸室内管弦楽団のCDがある。友から借りたものだ。ビゼーが交響曲を書いていたことも知らなかったがフランス風な色彩感は抑えめで、しかし明朗な溌溂さがあり楽しい曲だった。指揮もオーケストラも冴えわたっている。流石だ。渡り鳥が森を楽しむ様に似ているように思った。
ここしばらくは毎日聴くだろうな。高原に引っ越してきた自分。明らかに以前とは違うことを自覚している。風景を見て天候を感じ、風の匂を嗅ぐ。その中に感じることは十はあるだろう。そして頭の中の音楽が容易にかろやかに再現されるようになった。たいしたことが起きるわけでもない毎日はメロディに溢れ色ずいているではないか。
冬至まであと一週間か。そして年を越す。冬の森で遊ぶジョウビタキは北に還るかもしれないが、僕たちも行きつ戻りつ少しづつ進んでいく。冬から春へ。森も又喜びにあふれる事だろう。
https://www.youtube.com/watch?v=mOPzzhOpSKc レナード・バーンスタイン指揮、ニューヨークフィルの演奏にて。実に溌溂としている。