日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

敵は異業種にあり

職場で使っている掃除機。地元の人のための施設で働く自分には事務所の掃除と言う仕事がある。使っているのはかつて自分が勤務していた系列の某電機メーカーの商品だった。一応コードレスだがどうも使い勝手は今一つ。モーターは威勢が良いが吸引してくれない。HIGHモードにすると少しは頑張ってくれる。吸引口の回転ローラーにはやはり髪の毛や細かなゴミが絡まり、そこからしてつまづいているように見える。また掃除が終わると充電器を兼ねた収納スタンドに載せるのだが、肝心の充電器との接点が甘くすんなり充電とはいかない。そこで無理やりひもで縛って強制的にコンタクトを確保したり、と極めてアマチュア的な方策で充電していた。ごみ捨ての際は必ずや埃が舞うのだった。全体の作りの甘さ、追い込み不足を感じていた。

職場は掃除の業者が入っており、事務所以外はすべてその業者さんが掃除をしていた。彼らが手にする掃除機は自分達のものよりも小さくかつパワフルだった。すいすいと掃除をするのを横目に見て、あれいいな、と思う日々。

程よく一台が壊れたので買い替えとなった。もちろん業者さんが使っているメーカーの品にしたい。発注の前に見せてもらった。軽い。その最大の理由は掃除機の吸引口の単純さだった。只のプラスチック成型品に小さなガイドローラとナイロンの刷毛がついているだけだ。家電メーカーはここに注力してローラーを回して叩集塵など色々と工夫を施していた。我が家の掃除機もしかりだ。しかし実際はこれがネックだった。このローラーを一切排してしまい強力なモーターで一気に吸い取ろうというのは家電メーカーにはない発想だろう。これだけで随分と軽量化になっている。また充電池は簡単に取り外して充電器にプラグインさせるだけだった。

そうそれは家電メーカーの製品ではなく、電動工具メーカーの商品だった。ドリル、インパクトドライバー、サンダー。そして刈払い機や電動鋸などの商品では必ず目にするブランドだった。手持ちの工具だから程よいサイズの充電池もお得意だろう。簡易で実直な性能が買われ、最近はその掃除機は一般家庭にも人気だという。実際職場の同僚はご家庭で使用されているという。彼女の話によると、最近ではインテリア雑誌などでもこのブランドの商品がある種「お洒落」なブランドとして、モデルさんと共に写真に写っていたりするそうだ。

このブランドはかつてはとあるハードロックバンドのギタリストがそのドリルをギター演奏に用いたという事で評判になり実際彼・ポール・ギルバート氏はイメージキャラクターにもなっていた。高速ピッキングをドリルで、という発想も凄かった。しかし今では女性モデルでインテリア雑誌か、と驚いた。

マーケティングの教科書に出てくるマイケル・ポーターのファイブ・フォース。外部環境分析手法の一つだが自社を取り巻く環境を見る際には欠かせない。脅威とされる環境の一つは「異業種からの参入・代替品の脅威」。フィルムカメラ―メーカーはデジタルカメラに放逐されたが、そのデジカメも今度はスマホに駆逐された。一例としてよく上げられる。

有名な家電メーカーの商品もより違う視点でモノづくりをしていた電動工具メーカーが台頭し地位が危ぶまれるとも思わなかったに違いない。「敵は異業種にあり」。そうそれは教科書通り「異なる業種からの刺客」だった。しかも巧妙なブランド戦略があったのだろうか、お洒落として定着しているという。

慣れ親しんだブランドの我が家の掃除機も最近はくたびれてきたし、なによりもコードレスが欲しくなった。同社の電動工具はこれから幾つか購入しようと思っていたがその前に買うものが出来たようだ。我が家もお洒落最前線になるかもしれない。しかし懐かしの会社にも頑張ってもらいたいものだ。どちらも応援したいが次の掃除機は申し訳ない事になりそうな気がする。

床に並ぶ新旧掃除機。いずれもコードレス。新参者の白い掃除機は軽量でパワフル。無駄のない割り切った設計は心地よい程だった。