日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

リカちゃん人形に腕時計

鉄道、プロペラの飛行機、自転車、カメラ、腕時計。どれも好きなものばかり。そればかりだと無秩序だがそこにある単語を並べると自分の好みの傾向は明らかだ。「メカもの」。

「メカもの」。メカニカルな動きをするものが好きなのだ。流石に鉄道も飛行機も所有はできない。模型で我慢。自転車は場所を食う。二台で我慢。しかしカメラや、腕時計ならば幾らでも所有できる。

お陰で多くのカメラも腕時計も、自分の前を通り過ぎていった。無駄と言うならそれなりの、つまらない出費だったろう。

ずっと気になって南側の窓際に置いてあった腕時計がある。それは太陽光の蓄電で動く電波時計。そして世界時間対応。電池切れもなく、いつも正確、世界中で使える。欧州に、米州東海岸に、西海岸に、中国に、と出張の多かった十年ほど前に、家内がプレゼントしてくれた時計だった。時計店の前で自分が欲しそうに何度も見ていた事もあったのだろう。クリスマスプレゼントの箱の中に入って自分のもとにやって来た。

リューズを引いて異なるタイムゾーンを選ぶと針は勝手に回る。その精緻な動きにたちどころにして「やられた」。 電波時計なのでデイライトセービングタイムにも自動対応だ。

しかし海外出張の機会もなくなり外したままにしていたら、放電して止まっていた。慌てて南側の窓に置きたくさんの太陽光を浴びせた。動き出したが、電波時計とはいえ二度と正確な時間には戻らなかった。

都会に行く用事があり、治して貰おうと量販店にその腕時計を持っていった。メーカーのブース。小一時間で、狂ってしまった愛機は「今の時」を刻んでいた。

タイムゾーンが北京のままになっていたので、中国の標準時電波をいたずらに探し回り電力をくっていたこと。それが決まった時間に繰り返される。それもあり満充電に至っていないこと。そんなことを店員さんは説明してくれた。

容易に想像がつくのだった。中国への出張から帰国して、疲れてタイムゾーンも戻さずにそのま外して日の当たらぬところに放置したのだろう。時差の少ない中国とはいえ、冴えない出張の成果に加え四時間の飛行機。放りだした時計は次回までは用もなかった。

納得の行く説明だった。

酷使して劣化していた革ベルトも同時に金属ベルトに変えてもらった。「毎日着けてくださいね、【この子】を」。我が子が不憫に思えたのか、そうメーカーから派遣されていた店員さんに言われた。

「もう【君】は大丈夫だよ。我が「腕時計フリート」へ、ようこそ。」

沢山あった安い腕時計も処分した。残ったのは登山には欠かせないトリプルセンサーの登山用時計、娘が学生時代にバイトした店で娘のレジで買ったプラスチックのデジタル時計。叔父の葬儀の返礼品時計。勤続二十五年と裏面に掘られた金色の時計。欧州の駐在から帰国する際の記念に買ったスイス製の自動巻き、そして中国出張のたびに空港で見とれて三度目にしてようやく買った国産の自動巻き。そこにようやく、家内が買ってくれた世界時計が、戻ってきた。これで七本だ。

七本目は家内にすまないと思っていたので、復帰の報告をしたら、彼女は嬉しそうだった。

今は腕時計の必要な日常でもない。しかしいつも時を気にして、少しは規則正しく生きるのも悪くないだろう。すると着せ替えの「リカちゃん人形」よろしく、毎日腕時計を着せ替えるのか。一日一個で一廻りすると翌週か。日めくりのようで、わかりやすいぞ。

七本の相棒にそれぞれ思い出あり。それらが未来への時を支えてくれると思うと嬉しい。いくら「メカもの」が好きでももうこれ以上買う必要もない腕時計。七本の相棒を大切にして毎日を過ごしていこう。

戻ってきた七本目。中国から帰国し疲れていたのだろうか。外してそのまま。その時以来彼は狂った時を刻んでいた。すまなかったね。でももう大丈夫。これからはフリートの一員として日替わりのリカちゃん人形だね。