日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

年に一度は、夢の国へ

新年の楽しみ、色々ありますね。お正月に漂う独特な空気感は自分にとっては「襟を正して厳粛でもあるし、離れていた家族にも会えてのんびりもできる」そんな、やはり晴れがましく楽しいものです。

自分にとっての新年行事で欠かせないのはもうひとつ。「年に一度の夢の国」を味わう事です。

デジタル放送、ネット、そんなインフラの改善に伴い8時間遅く時間の進む「かの地」からの中継がライブで見られるようになり久しいです。かの地とは、そう、ウィーンです。きらめく美しさと楽しさのワルツとポルカ。ムジークフェラインザールの夢の響き、紡ぎ手はウィーン・フィル。指揮者は毎年変わります。そうです、「ウィーンフィルハーモニー管弦楽団によるニューイヤーコンサート」。元旦の夕べにNHKで放映されるのが楽しみです。

しかしこの時間帯はお正月らしい番組もあるのでもっぱら録画のみ。そんな訳でテレビが空くころ録画をゆっくり見ています。

90年代あたりから歯抜けではありますがニューイヤーコンサートのCDを集めています。カラヤンマゼールアバドクライバー、メータ、ムーティ小澤征爾・・・万事につけてこのあたりの指揮で様々なクラシック音楽に接したので、彼らが指揮する年のCDは少し棚にあります。今年はダニエル・バレンボイムが指揮です。

基本的には「ワルツ王」・シュトラウスファミリーの曲目ではありますが、ヨハン1世、ヨハン2世、ヨーゼフ、エドゥアルト、そんな親子兄弟の一家で「よくぞこんなに沢山曲を作ったな」。、そんな感じで毎年新しい演目との出会いばかりです。それにヘルメスベルガーやツィーラーなどの作品も加わるので、自分にとっては「演目全部知っている」という事はあり得ません。いったい対象の作品はいくつあるのだろう?だからいつも新鮮。聞き馴れた曲が来れば嬉しくのめりこんでノッてしまうし、初めての曲はじっくり聴きます。

今年の指揮者、バレンボイムは自分がクラシック音楽を聴きだした頃はピアニストとして著名でした。ただバッハとモーツァルトピアノ曲ばかり聴いていたので彼の演奏にはあまり触れた記憶がありません。同じく、ポリーニアシュケナージなども聴き始めは少し遅れました。

バレンボイムは夭逝したチェリスト、ジャックリーヌ・デュ・プレの旦那さん。そんな程度の知識でした。しかしいつぞや彼は名指揮者。そしてイスラエルの国籍を取り直し、音楽を通じてアラブの世界との平和を訴える活動も始めていました。このあたりからは自分もネットで指揮者としての素晴らしい演奏を目にするようになったのです。

恥ずかしながら第1幕は未知の曲が続きました。そして第2幕の歌劇「こうもり」序曲で「おお!」と盛り上がります。自分の中でのスターであるカルロス・クライバーが自家薬籠中とした曲ですが、負けず劣らず、素晴らしい。そしてエドゥアルト・シュトラウスポルカプラハへの挨拶」、このあたりは唸りました。優しい演奏です。愛聴しているムーティ指揮の2000年版の溌溂とした解釈とはまた違う魅力でした。

最後の2曲は毎年のお約束。イントロのみ演奏していったん休止。「美しき青きドナウ」です。これが無いと収まらないのです。そしてホールを振り返り、「ウィーンフィルから皆様へ、新年おめでとう」の挨拶。、そして指揮者の挨拶は続きます。


ウィーンフィルが今年こうしてここで演奏できることはとても大切なことです。
しかしもっと大切な事、それは皆さんもご存知の通り世界が今とても厳しい情勢に面していることです。
今ここで沢山の音楽家が一つのコミュニティになり、そして皆が同じことを考えています。
コロナは医療の破局ではなく人類の破局であり、それは皆を分断しようとしています。
自分たちはこの音楽家たちが今感じあっているように、それに立ち向かうのです。
今日これらの演目を演ずることがこの今の問題を乗り越えるための素晴らしい見本なのだと考えているのです・・

そんなメッセージを分かりやすくゆっくりと語りかける、その語り口もバレンボイムらしさを感じさせました。
ラストの「ラデツキー行進曲」はこれもゆったり目に演奏。観客席に振り替えり、皆の手拍子を求めるシーンでは、その一体感にやはり涙が出ますね。

いつか、本当に一度でいいから生で、目の前で聴いてみたいウィーンフィルニューイヤーコンサート。しかしそのチケットは抽選でブラチナ。奥さんが毎年応募しようか?と言ってくれますが遠慮しています。お正月は日本ならで味わえる風景に接したいし、この番組は録画をゆっくり見るのが楽しみ方です。今年の「夢の国」、いつも通り素晴らしく楽しめました。今年の演奏は良かったので久々にCDを買おうか、と思っています。

ウィーン・フィルは我が憧れ。初めて聞いたウィーンフィルNHKホール、そして欧州ではパリ・シャンゼリゼ劇場。彼らの演奏で聴いたハイドンシューベルトブラームスブルックナー、ベートヴェン・・これらに接した興奮とその記憶を大切にしています。そのウィーンフィルの本拠地であるムジークフェラインザールは自分にとっては「夢の国」です。2008年3月にここで聴いたウィーン交響楽団の演奏会は「夢」のようでした。

ウィーンフィルの映像も長く見ているとメンバーも変わっており、コンマスのライナー・キュッフェル氏を始め好きな奏者もそのメンツが変わってきています。そして、何よりも基本ドイツ・オーストリア人の男性団員に限定されていたオーケストラにも今は女性団員も東洋人の団員もいるのです。それでも変わらぬ伝統の音。ダイバーシティの流れは避けることが出来ず、誰もがそれに向き合い、取り入れていきます。伝統を重んずるウィーンフィルもそうです。皆が変革を求め自ら変わっていく。コロナへの対応もそうあるべきなのでしょう。

今年も「夢の国」から年に一度の中継も楽しめました。バレンボイム氏も言っていたようにコロナの中それを乗り越えたいものです。


1月1日に全世界に向けて放映されるコンサート。英語コメント版がネットに上がっていました。 https://www.youtube.com/watch?v=K6smjwItpM8

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左 : 憧れのムジークフェラインザールにて聴いたウィーン交響楽団のウィーンの春を祝う演奏会。2008年3月、指揮ファビオ・ルイージ

右 : もっとも最近聴いたウィーン・フィルの演奏会は2010年、パリ・シャンゼリゼ劇場にてベートーヴェンの「第9」。2010年11月、指揮クリスティアンティーレマン