日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

脳腫瘍・悪性リンパ腫治療記(28)大量キロサイド療法

RMPV療法を手始めとした一連の悪性リンパ腫治療も、放射線治療をも終えると最終段階だ。大量キロサイド療法と呼ばれるそれは、キロサイド(シタラビン)を大量に点滴投与するもの。シタラビンは急性白血病に使われるというが、悪性リンパ腫でも使われるという。血液脳関門を通過する薬なので脳に居座っていた自分の悪性リンパ腫にも効果があるのだろう。なによりも医師の決めた事に従う。医師と患者の信頼感が必要だ。必要な時はきちんと納得がいくまで説明していただいたのだ。

点滴は1回。それを2クール。点滴自身は1時間程度。その前に吐き気止めの点滴。そしてステロイドの点眼薬(フルメトロン)を処方される。そして何日にもわたり執拗に行われるのが点滴終了後の血液検査。点滴後の血液検査はどの抗がん剤でも行われるが、シタラビンの投与後はより頻繁だった。第1クールと第2クールの間には2週間以上のインターバルがある。それも意味のあるものだった。

ステロイド点眼薬は、シタラビンの副作用である結膜炎を防止するため。吐き気止めも副作用防止、そして執拗な血液検査は、特に白血球と血小板の減少を監視し、必要な手を打つためだった。

第1クールですぐに副作用は劇的に出てきた。翌日には白血球値が即座に減少し、ジーラスタ皮下注射1本では回復しない。時間をおいて又注射される。さて今度はどうなるか。白血球もさることながら血小板の減少が著しかった。基準値158-348に対して、シタラビン投与前は168あったが投与後は一気に53へ。その落ち方は、華厳の滝那智の滝か。見事な落差に、説明を聞く自分も唸ってしまった。

次の手は血小板の輸血だった。これで値を戻すのだ。インフォームドコンセントがある。血が止まらないリスクと輸血をどちらを選ぶのか。血液製剤とは何だろう。HIVや肝炎感染のリスクはないのだろうか。いや、今は安全ですよ、と医師は言われる。口内炎で出血しても血が止まらなかったら困る。

翌日から血液製剤の点滴が始まった。1パック点滴が終わるころ、体中に異変が出てきた。体が痒い。頭の先から足の指さきまで、じりじりと痛痒い。蕁麻疹の様な発疹も出てきた。

「他人様の血を入れるとは、こういう事か」

抗ヒスタミン剤ステロイドの点滴でしのいだ。薬が効いてくるとスーッと抜けて行くのも、蕁麻疹の発作と同じだった。血液製剤の点滴をしても、なぜか血小板の値は戻るどころかさらに下がるのだった。数日間の長い期間を経て、血液データはゆっくりと正常値に戻る。結局はゆっくりと時間をかけて自然の治癒力に委ねられるのだ。第2クールがすぐに来ないのにも訳があったのだ。

第2クールも第1クールとほぼ同じ過程を経た。シタラビン投与後の白血球と血小板の落下はイグアスの滝程だろうか。そのまま血液製剤の点滴へ。違いはあらかじめ抗ヒスタミンの点滴をしたことだろう。しかしそれも甲斐なかった。前回よりもさらに激しい蕁麻疹状態に、医師も血液製剤を1センチほど残した時点で投与を中止した。

血液製剤をすべては入れることが出来なかったが、目的のシタラビンの投与はすべて行われた。これで良いな。満点の治療だったのではないか。患者が一人納得しても仕方がない。しかし、何かやり遂げた感はある。

1月に脳外科手術にて脳腫瘍摘出。2月から血液内科。4月末で5クールのRMPV療法終了。5月からは通院に切り替え13回の放射線治療。6月は2クールの大量キロサイド療法。自分の大切な時間は、1月から再就職したやりがいに満ち溢れていた職場は一体何処へ行ったのだろう。

あとはしばらくの経過観察で、結果確認のCTだ。

 

追記:シタラビンについては下記サイトが参考になる。https://www.anticancer-drug.net/anti_metabolites/cytarabine.htm