日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

ルーズな奴ら

高原の地に移り住んでから車に乗り走る距離が格段に増えた。都会の住宅地では十分も歩けばコンビニもスーパーもあった。この地では車で三分、歩いて二十分だろうか、小さいが必要なものは何でも揃う店がある。しかし自身の病院や犬の病院、色々な食品、衣料、ホームセンター等に行くならば車で二、三十分は必要だ。信号停止も渋滞もないのだから所要時間は同じでも走行距離は二倍以上ありそうだ。

車の中では大きな音で音楽を聴く。クラシック、70年代までのブラック、70年代までのロック・・。バンドでは低音楽器を担当する自分はやはり無意識に低音をブーストしてしまう。そんなふうにベースとバスドラがズンズン響くと運転は楽しい。

SDカードに入れた音楽フォルダをカーオーディオは再生する。今日選んだのは英国の五人組バンドだった。引っ掻くようなリズム・ギターだが彼はソロになるとボトルネックを指にはめる。軽快なブギウギピアノに暖かいレスリースピーカーのオルガン。音数の少ない割に重たいリズム隊。その上に酒やけなのかしゃがれたボーカルが重なる。少しトーンの高い鼻に詰まったようなコーラスはベーシストの担当だ。派手な衣装のボーカリストと顔を突き合わせたギタリストも時折しわがれ声で適当なコーラスをつけている。音楽をプレイする楽しさが漂ってくる。

そんな彼らは車の中で今日は跳ねるビートを、鮮やかなスライド・ギターを、音数の極めて少ないバラードを聴かせてくれた。僕はいつものように左手でエア・スネアを叩いてしまう。すると単純そうなドラムスも結構凝ったフレーズを見せることに気づく。しかしカーブの多い山道が続くので危険を感じてハンドルを握り直した。罪作りなサウンドだ。

ロック界きっての「酔いどれバンド」、そう言われていた。実際彼らのステージフォトを見るとウイスキーの瓶も欠かせない。動画を見るといかにも楽しそうなメンバーを見ることができる。そんなステージを見たかったな、と思う。が、彼らは1975年に解散した。メンバーは散りある者はソロとしてビッグネームになり、ある者は他のバンドに移籍しまたある者は他界した。改めて彼らのアルバムを聴くとタイトなロックンロール、ルーズなロックンロール、カントリー、フォーク、そんなオリジナル以外には意外にブラックミュージックのコピーが多い事に気づく。どれもせいぜい一発取りではないかと思わせる素朴なプロダクションも魅力だ。

黒人音楽にイカれた英国の若者が自分たち流にそれを取り込み、かつ個々のルーツにも触れる。この頃の英国ロックにはよくある話だが、彼らの持つルーズな音がとても快い。車を走らせながらデカい音で聴いて改めてそれを感じた。

バンドのリーダーは誰だったのだろう。ボーカルのロッド・スチュワートだろうか?彼はフロントマンであったが音の方向性を握っていたのはベースのロニー・レインだったと思う。ロッドのソロ活動が増えてバンドは空中分解。人の良い陽気なギタリスト、ロン・ウッドはその後はストーンズ(ザ・ローリングストーンズ)に移籍しバンドを支えている。ドラマーのケニー・ジョーンズは他界したキース・ムーンの後任としてザ・フーへ。キーボードのマックことイアン・マクラガンはその後セッションプレイヤーへとそれぞれの道を歩んだ。かじ取りをしていたロニー・レインは難病にかかり他界した。もう彼らのサウンドは聞く事は出来ない。ロン・ウッドはソロ公演で武道館に来た。僕は必死になりチケットを取った。マックが同行していた。ロンとマック。誰もが期待する。70年代の彼らのナンバーを。STAY WITH ME で武道館は揺れた。そのマックももう今は世を去ってしまった。

ルーズな奴らの演奏は自分を幸せにしてくれる。過ぎた時代への哀愁なのか、音楽の持つ本質なのかは分からない。ただ言える事は、気負いなく適当にルーズで適当にタイト、その匙加減が抜群なのだと思う。自分もああなりたい。すべてをスクエアに纏める人生はもう終わっている。あとはリラックスして緩くやる。まったくあのルーズな奴らにはやられるな。様々な好きな音楽が自分を包む。さて明日は何を聞こうか・・。

こんなルーズな音が好きだ。片意地を張らずにリラックスをしている。といって手抜きをしているわけでもない。良い匙加減だと思う。

https://www.youtube.com/watch?v=JtqF0qBqzZo