三十年以上も昔、皆がまだお気楽な社員だった時代。四人のマウンテンバイク野郎どもは秩父の河原で自転車に興じ、焚き火をしてテントで寝た。小綺麗なたくさんの用品に囲まれて非日常を野山に求めるキャンブブームが後に来るとも想像できない頃だった。
当時の野郎どもはその後それぞれの道を歩み、長きブランクを経て再会したときは皆還暦か、それを超える年齢だった。
三つ子の魂百まで。再会したら凝りもせずに皆また昔どおりの自転車野郎だった。
話は早かった。三人の都合があい新春厄除けランをしようとすぐ決まった。関東の厄除けと言えば佐野に決まっている。佐野といえばラーメンと決まっている。幸い三人ともラーメン大好きだった。
宇都宮線古河駅でランドナーの輪行袋を解いた。まずは「三県境」を目指した。農地の中の標が栃木群馬埼玉の県境という。そこから先は渡良瀬遊水池を通り渡良瀬川の土手から里道、農道も使って北上した。万葉集にも歌われた山・三毳山が見えれば佐野の方角はすぐにわかる。自分の登った山はどこからでもどんなに離れてもすぐにそれとわかる。
自分たちの行くべき箇所は三毳山に正対して22時の方向だろうか。先行の友はうまく道を探して、厄除け大師だった。佐野ラーメンも美味しく頂いた。そしてゴールは足利のワイナリー。友はなかなか良いルートで道を探していくが、後で聞いたらスマホの案内に従ったという。
それもありだ。お陰でダンプカーにも出会わずに渡良瀬川を超えて足利だった。前方にはひと月前に歩いた行道山から織姫山の稜線が長かった。傾きかけた陽が差すワイナリーに着いたらレストランはクローズ。開いていた売店には美味しそうなワインが並んでいたがフロントバックは満杯でお土産ワインは諦めた。ここはまた来れば良いだろう。足利駅前で輪行袋を作り居酒屋で喉を潤した。
厄も除けた。本年初めの麺も美味しく頂いた。丘のふもとのワイナリーから西日にあたる足利の町も綺麗だった。予定したポイントはすぺて走れて、素晴らしかった60キロは計画通りだった。
「月が綺麗だよ。真っ白な満月!」電車の窓から夜空に一瞬見えた白い満月に二人に声をかけた。酔ったおじさん達は首をねじり「ウーム」と一応に口にした。そしてまた温かいシートに座り直してこうべを垂らし三人三様の夢を見はじめるのだった。
下車駅はそれぞれ違う。さて皆予定通り降りられるのか。それも判らないし、降りれなくても良いではないか。