天気の良い朝だ。ノルディックポールを手にして近所の公園をノルディックウォーク。外に出て歩いてみるものだ。古びた郵便ポストを前に「上からのぞき込んでいる」カメラマンが居た。
のぞき込むカメラはもちろん二眼レフだった。
「ローライですね」
「そうですよ」
ずばりとした質問で相手も自分がどんな人間かわかったのだろう。好き者同士の会話は弾む。なにせこちらは二眼レフは遠巻きに見るだけで触ったこともない。35m一眼レフ全盛期にカメラをいじりだしたのだから、古びても存在感のある小さなメカの箱に好奇心満々となる。
彼も自分と同年代だろう。35㎜はキャノンから入ったという。F1ですか?と聞くと、いやいや、AE1ですと苦笑いだ。「おお、連写一眼!ですね」と、分かりあえる者同士の会話がポンポン進んだ。「自分はニコン党、FM2です。でも一番よく使ったのはやはり絞り優先のFG20でした」。すると「絞り優先オートが手軽かつカメラの基礎が分かりますよね」とお答えになった。
ローライをじっくり見せてもらった。ローライフレックスは有名だが、このカメラはローライコードと謙遜気味に言われる。下のレンズが撮影用、上のレンズはファインダー。レンズシャッターなのでシャッター幕はない。ファインダーは上からミラー越しにいつも風景をのぞき込んでいる。左右が逆になる。絞りとシャッタースピード、ピント合わせの距離ダイアル。すべてマニュアル。露出計は内蔵されていないので、別途持たない限りはカンというか経験値だろう。パララックスはレンジファインダーの比でもないだろう。視差修正、露出、ピント合わせもすべて経験か。
レンズは35㎜カメラ相当では35㎜レンズ程度の画角と言われる。絞り込んでパンフォーカスにして使うと楽だろう。
フィルムはネガもポジもある。現像もいれるとフィルム一本当たり4から5千円と言うところらしい。
彼は古電柱や古い赤ポスト、道祖神など、街の中での去りゆくものをローライで撮影するといわれた。それは愉しいだろうし、露出とピントは彼の経験則から来るのだからそれがバチリとはまった時の歓びは大きいのだろう。
唯一の後悔はローライの放つメカニカルなシャッター音を聴き損じたことだが、二眼レフに触れたことから見れば些細な事だ。
素敵な趣味だな。と思う。こんなので世界を覗けばモノの捉えからも変わるだろう。すっかりデジタル一眼の、コンデジの、そしてスマホカメラの世界に慣れてしまった自分も、長期休暇取得中のニコン35mm軍団に出動をお願いするか。そんな事を考えた。
人生を楽しむのも、考え方や気の持ち方、そして実行力次第。首からローライを気負わずにぶら下げた自分と同年代のシニアに、そう教えてもらったようだ。