とある高原の、自家製ベーコン屋で購入したベーコンを美味しく食べている。もったいないので少しづつしか食べられないという自分の性分は情けないが、長持ちさせたいものだ。
昨日はフライパンで温めただけで、バゲットにチーズと伴に載せた。ベーコンのチップの香りが高原の森を想起させる。スーパーで買ってくるベーコンとは別物だ。その製作工程を実際に見せていただいただけたこともあり、納得の味だった。塩加減も香りも申し分ない。シンプルな、料理と言えない一皿でも、ワインと共にバゲットが進んだ。
そうだ、これまた、バゲットが美味しかった。高原のベーカリで買ったもの。ここにはフランスの「バゲット」がある。自宅周りのスーパーのベーカリでは同じ名前で似ても似つかぬものが出てくる。パンナイフを入れるとそのパンは、何と「へこむ」。柔らかいのだ。そんなバゲットを通じて分かったことは、多分日本人はパンに柔らかさを求めるという事。確かに食パンのTVコマーシャルなど、パンがまるでスポンジのように柔らかい、それを美味の証として宣伝している。それも良くわかるし否定しない。しかし、バゲットに関しては柔らかさで来られると「困る」。
バゲットがこういうものかと知ったのは、フランスでの生活だった。なにせバゲットを求めて暴動が起きた国だ。主食だからそれは分かる。日本のコメ騒動と同じだろう。バゲットは棒のように固く。皮はパリパリ、カリカリ。パンナイフでは「押し切る」のではなく「鋸のように切る」。フランス人はパンナイフで切る事もなく「千切る」。それには結構力が必要だ。バゲットの中身も又決して柔らかくはない。空気穴が開いていて、むしろ食感は硬い。コシがあるというべきかもしれない。適度な塩分と混ざり、切ったバゲットだけで食べられる。むろん、カマンベールでもあれば、美味の無限地獄だ。
大都会・首都圏。もちろんそんなバゲットを出す店もある。何といってもフランスのブーランジェリーのチェーン店が出店しているのだから。しかし近所にはなく、デパートでの出店などのお洒落な箔付けも手伝ってか、なかなか味わえないのだった。在日フランス人が暴動を起こさないか心配になる。そんな中、高原産の貴重な一本は、バゲット本来の味と、素晴らしいベーコンが手伝い、たちまちにして消えた。
翌日の夕食。スーパーのベーカリーのバゲットは見定めて遠慮した。代わりにパスタとした。手の込んだものは作りたくなかった。入手した高原のベーコンを使いスパゲティ・アリ・オーリオ・ペペロンチーノでも作るか。何と自宅にはアリがなく、チューブ入りのニンニクとなった。ペペロンチーノも高原の道の駅で探したが残念に品切れ。農家お手製のあれもとても辛くて美味しいのだが、残念。袋入りのメーカー品に。高原のベーコン以外にメーカー品のベーコンも一切れ残してあったのでそれも使った。付け合わせには冷凍していた小さなハンバーグ。豚ひき肉と玉ねぎだけで練るだけの簡単なものだが、肉汁に加え赤ワインとケチャップ・トンカツソースで簡単に作るソースはなかなかいける。それにオリーブオイルと塩コショウのトマトサラダ。
ベーコンの違いが明らかだった。やはり香り、塩分。「これだね!」と家内と頷きあって、再びワインが進んでしまった。
ベーコンもバゲットも、色々ある。手近なところで、気に入るものを探してみよう。多少値段が高くても、許してはもらえぬか。コストばかり気にすると、心もすさむ。すさむのはコロナ禍だけで充分だ。