日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

今日も漬けて貰って、ありがとう

日本人で良かったな、と思うのは炊き立ての白いご飯をパクパク食べるときだろうか。おかずは主菜だが、脇役たる副菜も楽しい。主菜は美味しいがえてして重く、副菜で味覚の軌道修正をしているのではないか。ご飯パクパクは、むしろ副菜相手の時の方が多いかもしれない。

ひじきの煮物、きんぴらゴボウ、切り干し大根、きゅうりとワカメの酢の物、山芋の千切り…。おっと忘れていた「香の物」。映画「男はつらいよ」で、寅さんが柴又に戻ってきては旅先で味わった理想の朝食について名調子を語るシーンは劇中多い。その長台詞の中でいつもその最後に出てくるのが「香の物」。何のことはない漬物だが、如何にも心地よい響きだ。

英語を始めとする他国言語に詳しくないが、食に関するオノマトペが日本語には多いのではないか。主食たるご飯や麺だけでも、ホクホク、モグモグ、ワシワシ、サラサラ。アツアツ、ツルツル、ズルズル…沢山ある。

ポリポリ、コリコリ、カリカリ、サクサク、ハリハリ、シャキシャキ…。これらは食感のオノマトペ。いや、香の物、つまり、漬物に関する擬音と言える。最たる脇役と思える香の物・漬物はこれ程多種多様なオノマトペに飾られている。なんたる功徳だろうか。

「おぎのやの釜飯」も「崎陽軒シウマイ弁当」も、それぞれ香の物を取り除いた姿を想像してほしい。寂しい。あらら、画竜点睛を欠くとはこのことか、と思うわけだ。

そして左党ならば誰もが感じているだろう、香の物は実は最高のお酒の友でもあると。

日本酒や焼酎は漬物一つで杯が重なる。ポリポリとタクワンをかじりながら、シャキシャキと野沢菜をつつまみながら飲む酒だけでもで、軽く一時間は過ごせまいか。

仏伊西独だって負けてない。オリーブのオイル漬け。アーティチョークのオイル漬け。酢漬けではザワークラウト。様々なピクルス。ほらほら、進むでしょう。ワインが、ビールが。グラッパが、シュナプスが。

最近妻が始めてくれた。ぬか漬け。

「え、小さなバケツでぬか床作るの?手入れ大変なんでしょ?」
「違うのよ今は。ぬか漬けパックがあるから。」

液体洗剤のリフィルかと思うようなプラスチックの袋を妻はスーパーで買い物かごにいれた。ほう、これか。

すると翌日から魔法がおきた。漬物天国だ。

キュウリ、ナス、ニンジン、ダイコン。おお速球でくるな!と思っていると、変化球が飛んでくる。セロリ、ミョウガ、ショウガ。今度はアボガドも漬けたい、と怖いことを言う。流石にデッドボールにならぬか心配だ。糠は野菜を取り出して洗うと少しづつ流れるから何処かで補充すれば良いらしい。

ご飯も美味しくなるし、何よりも長い時間かけてチビチビとお酒が楽しめることとなった。スナック菓子で酒を飲むよりも遥かに美味しいし健康的ではないか?などと思っている。ぬか漬けメニューでどうやら妻の前頭葉はフル稼働してるようだ。嬉しい限りだ。

困ったことは、ご飯もお酒も増えてしまうことだろうか。塩分はスナック菓子にも負けていないし、糖質もアルコールも増えて良いことなしだろう。

妻に何処かで言わなくてはいけない。香の物、いつも漬けて貰ってありがとう。たださ…、量は少し減らしてね。と。

この袋は魔法の袋だった。一回表は胡瓜、茄子。二回表は、人参、ダイコン。三回表からは変化球。ミョウガにセロリ。次は何が来るのだろう。