所要で世田谷区から東急大井町線に乗った。終点大井町にはどう見ても戦後を引きずっているとしか思えない、小さな古い飲食店街がある。
その中の一軒に、これまた映画のセットにでもなりそうな古びたラーメン屋がある。
三十年ほど前に会社の先輩Mさんが教えてくれたお店だ。ラーメン好きのM先輩とは当時色々探訪したのだ。ここはなんでもMさんのお父様が好きだった店と言われていた。
ぱっと見は街中華だがメニューはラーメン類と餃子、炒飯、野菜炒めしかない。手広くはやっていない。無論ビールとラーメンの具をおつまみにして楽しめる。店の前に並んだ丸椅子はこの店が行列のできる店ということを示している。
М先輩とはまた別の、アウトドアの好きなH先輩とはこの店に会社帰りによく立ち寄ったものだ。多くはないメニューでビールを重ね、締めにラーメンを食べて帰るのは楽しかった。ここで良い気分になりながらH先輩とは前回のアウドドアでの反省会や、次回のキャンプやバイク・ツーリングの計画ばかり練っていた。
乗り換えの大井町で降りて自然と足は古い飲食店街に向かう。知らなければまず辿り着かない、家内ともよく来たお店は健在だった。何年ぶりかも想像もつかない。
醤油ラーメン。焦がしたネギと食感を残した茹でモヤシが懐かしい。何よりも嬉しいのはじっくりとタレでしっかり煮こんで周りが黒くなった茹で卵が半身載ってること。中身トローリの半熟玉子が嫌いな自分は小さく「快哉」を叫んだ。
麺も、醤油味の強いスープも気負いがなくて良かった。今のようにラーメンが多様化する前の、原点に近いだろうか。重層的な味わいではない。もっとストレート。戦後屋台のテイストってこんなものなのだろうか。
さっと食べてさっと店を出る。狭い路地から駅前の空間に出て、少し目眩がした。
老舗は変わらぬ味。未だに健在なり。今度H先輩と三十年ぶりにでもアウトドアの計画でも練るか。もちろんこの店で。