前回の山からわずか一週間。その間になんと梅雨が明けてしまい、先週とは大違いの暑い山。今回は秩父鉄道の和銅黒谷駅が始点。もう退職してしまった前々職の会社の仲間たち4人で登る。
皆、くだんの会社は辞めてしまい、他の仕事をしている方、嘱託の方、パート。それぞれだ。そしてみんな共通して、これからの人生の過ごし方を模索している。会社を離れると会社という組織だけでつながっていた上下関係や同僚と言う名の絆は直ぐに崩れることはよく言われる。海外駐在も含めて沢山の経験をさせてくれた会社には感謝はあるが、自分も、それだけだ。本当にお世話になった方やその後も付き合おうと思う人は少ない。いつまでも会社によって作られた人間関係にすがる、それしかないという事、会社生活が終わったら何も残っていない、そんな身の過ごし方はもったいない事だとずっと思っていた。
そんな中で今、付き合いのある元の会社関係の仲間。もとは上司や先輩だが、そんな枠組みを取っ払って会うようになると、あえて仲間と言えるようになる。相手に関して、当時は知らなかったことも、新たな一面も見られて、それは楽しいものだ。
そんな仲間内ではハイキングや登山がブームのようだ。大きな縦走を休みの度にやる方、北アルプスを密かに狙っている方。ではちょっと準備運動しましょう、そう話は盛り上がる。梅雨明け前ならアジサイが一番美しいだろう、とアジサイで有名な秩父は皆野町の蓑山へ。
自分は高崎線の熊谷経由。残りのメンバーは先週の自分のように西武秩父線でやってきた。蓑山は山頂に自動車道も通じている。しかし登山道に入ると思いのほか自然林も残り、ダラダラと暑かった舗装道路も嘘のように快適になる。
山頂は公園になっておりその東側にはアジサイの道があった。紫色ばかりではなく鮮やかな色が戯れる。
小さい山だから登りも下りもあまり気を遣う事もない。むしろイベントが気になる。そう、この山の計画には、秩父鉄道を走るSLを見ようという予定を嵌め込んでいた。皆野駅の到着時間まで余裕で下山をして、SLを見ることが出来た。やってきたロコはC58だった。黒光りしてメンテ充分だな。しかしSLならば自分はやはりタンク車。C11かC12がいいな。譲ってテンダー車なら高原のポニーC56でしょう・・、いや貴婦人C57か・。・・しかしこの手の話に深入りするとマニアの自分にはきりがないのでやめておこう。もう少し威勢よく煙を発して汽笛を鳴らしてほしかった、とだけ言いたい。が、騒音・煤煙、昔のようには許容されないこともあるのだと、物分かりの良いマニアは納得する。
SL見学も終えると直射日光と暑さでメンバー全員がよれよれになっている。しかし誰も音を上げないし自販機の清涼飲料水に手を出す人もいない。みんな我慢しているのだ。暑い温泉とその後の黄金の一杯を。だからストイックに、自らを絞り上げるように炎天下を歩く。
まるでインパールを目指しているかのようなマゾヒスティックな行軍も荒川沿いの日帰り温泉施設「梵天の湯」まで。汗を流して、オジサンたちはもうバクハツ寸前だった。冷えたジョッキに泡、泡。グイッと飲み干すと、みんなして「ビール一揆もビール暴動も、起きなくてよかったね。」と笑いあう。
かつては同じ屋根の下で同じ目標に向かって歩いていた仲間たち。今は、組織を離れ自分について模索して、これからの生を考えている。それを「仲間言葉」で語り合う。なんとも素敵な話だと思う。