日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

いつの間にか32周目です

ある春の日の事です。そう、結婚式でした。控室で関係者に「さくら茶」が振舞われたことを思い出します。

その日は羽織袴姿。家内は角隠し。そして親戚以外にはお互いの友人と会社関係の参列者。1990年代初めにはこんなスタイルがまだあったのですね。当時は親の意向が反映されていて、またそれが当然だとも思っていました。今思えば、チンドン屋の顔見世興業のようで、とてもやれたものではありません。今こんなスタイルは無くなり、こじんまりとしたものになりました。そうあるべきです。結婚式は新婚夫婦のためのものですから。

結婚式よりも役所に婚姻届けを届け出るほうが自分には大切でした。拘ったはずですが、届け出日が何時だったのかは覚えていないのです。自分の事だから、何とか同じ日にしたのでしょう。投函だけでも成立したはずです。

時間の経過はあっという間でした。そんな若い二人も、気づけば今やいわゆる「アラカン」です。この日、結婚して32年目が始まったのです。

冴えないことに自分はそんな肝心の日は仕事で、夜が遅いのです。本来なら精魂掛けてなにか美味しい料理を作り奥さんに喜んでもらい、美味しいワインと行きたいところでした。非正規雇用者ながらも仕事をそう簡単に休むわけにもいかないのです。

そこで昼前に散歩がてら近所のビストロに出かけ、お手頃なPlat du jour(今日のおすすめランチ)を頂きました。このビストロはフランスから帰国してすぐに、パリの街角の様に気楽に入れるビストロはないかね、なんて話して、偶然見つけたお店です。しばらくご無沙汰でしたがコロナも無事に乗り切られたようで以前の様に今日のランチタイムも小さな店がすぐに一杯になりました。

料理、自分はビアンデ、家内はポワソン。お昼ですが、もちろん特別な日ですのでワインで乾杯。ハウスワインの赤はオーストラリアのシラー、やや酸味もある飲みごたえのあるワインで料理との相性も抜群でした。昼間にワイン、仕事まで数時間。酔いもさめるでしょう。フランス勤務時代はランチタイムにワインは普通のことでした。今日はそんな昔日に帰らせて貰いましょう。

32周回か。今思うと色々ありました。ゆっくりと食事をしながら、色々と話します。

ねぇ、ワシらさ、何故結婚したのかな? ・・なんでだろうねぇ・・
辛かったことはある?・・・覚えていないねぇ・・
嬉しかったことは? ・・・美味しいものを食べたことかな・・

なんだかノリの悪い会話ですが、長い時間を経た夫婦とはこんなものなのでしょうか。 くだらない質問は止めてくれとでも言いたいのでしょう。しかしともに思い出しては時々話すのです。子供の話題が多く色々な思い出は尽きません。そして結論はいつも同じ。「彼らがそれなりに今独り立ちして自分たちで生きているから、ワシらはもう口出しせん事だよね。」 思い出話が中心になってくるのは年をとった最大の証でしょう。長いようであっという間だったこの年月は振り返るにもたくさんの事がありすぎて、記憶の扉を開けなくてはいけない。それだけの事が通り過ぎて日常になっているのだと改めて感じたのです。しかし女性は一般的には前を向いています。回顧に走るのは男性の仕事のように感じます。

だから「これからどうやって生きていくのかね?」と問うと「あれやって、これやって」と家内は雄弁です。それにあやかり自分も前向きになろうと思います。充分前向きなつもりでも、色々と考えることがあります。病の事、歳を取ったその先に何があるか・・。仕事で色々な世界を見ているだけに、避けられない現実を見ているだけに、気が重くなります。

・・・今日はまるで初夏のような陽気でした。ビストロから家までゆっくり坂を上って30分でしょうか。振り返ると京浜工業地帯が眼下に在り、遠くにベイブリッジとつばさ橋が見えるのです。陽射しは暑い位ですがそれでも丘の上にあたる風は心地よい。海の見える丘。ここは長く住んだ街です。結婚した頃はこの場所は競輪場でした。閉園後も長らく放置されていましたが、数年前から再開発に着手し綺麗で広大な丘の公園になりました。しかし開発はまだ半ば。ここに大規模な集合住宅群が出来るというのです。するとこの公園も若い親子連れでにぎわう事でしょう。横浜港の花火の最大の鑑賞ポジションです。この街も、「若い街」になっていく事でしょう。気づけばそんな世代のど真ん中を歩いていたはずの自分達もオールド・タイマーです。

さて明日は結婚2年目にして結婚式を控えた娘のセレモニーの為の式服選びです。コロナでしばらく延期していた式。娘と並び教会の道を歩めば、僕は間違えなく涙で目の前が見えなくなることでしょう。それも32周目の、素敵な思い出として残る事でしょう。

家内から、結婚式のタキシードなんだから、その出っ張ったお腹、なんとかしてね。と言われるのです。32年前にはそんなことを言う女性とも思っていませんでした。当時「角隠し」を被っていた理由もわかったのです。隠していたのですね。つの。その角にこれまでも何度も痛い目にあわされたのです。その原因は?と考えるとすべては自分に返ってくる。何も言うことはないのです。・・それも又、仕方ありません。長い、歴史です。飽きずに呆れずにともに過ごしてくれて感謝しかない。日々、これからも待ち受けるであろう山谷を過ごしていくだけです。平凡な時間の積み重ねでしょう。

あの日もこんな陽気だったのかな?少し酔った頭でもう一度素晴らしい眺めを振り返ります。やや色あせた古い路地を通り家に戻ります。いつの間にかに踏み込んでいた32週目の第一歩は、少し汗ばんだのです。

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32周目の第一歩は昔日の様に。ワインでデジュネ。