少し南西からの風が強い朝だった。犬と共に外に出ると、強いながらも肌に優しい、角の落ちた風だ。時折寒さもより戻ったこの数日ではあったが、もはや季節が変わったのも明瞭だった。
街を歩く人たちも一枚薄着になり、皆少し嬉しそうだった。
少し前に満開を迎えたのだった。樹齢何年?それは知りようも数えようもない。自分よりは確実に長く生き、周辺の風景と時の流れを見てきたのだろう。干からびて幾層にも重なった硬い樹皮がそれを物語るのだった。
折からの風に花びらが舞う。それは流れるように、あるいは渦を巻くように、少し気ままに舞い、時間をかけて地面に落ちていく。風に舞う花びらを見ると、その風もまた気ままに吹いている事が分かる。風の音はしかし、いつになく優しい。
我儘な風にさらされて、あるいは期せぬ雨にあたり、あと数日、一週間か。古い大木は少し裸になる、それと同時に新鮮な緑に覆われ始める。彼がまた白く淡いピンク色の外套に覆われるのはまた先になる。それを楽しみにして、また、一日を大切に過ごす事を自分は考える。次は一年後だ。
相変わらず気ままに吹く柔らかい風の中、犬が立ち止まり見上げた。そう、帰宅のタイミングだね。風に舞う花びらの中、ピンク色の絨毯を踏んで家路についた。