日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

華麗な響きに浸ります・・曽根麻矢子バッハ・イギリス組曲演奏会

バッハだけのプログラム。チェンバロで、演目はイギリス組曲。2番3番そして6番。コロナウィルス蔓延の時期、都心のコンサートホールは避けたいところですが、演目に負けて家内分と合わせて2枚チケットを買ったのは3か月ほど前でした。嬉しいことに無事に演奏会は実施されました。

自分がバッハの音楽に接したのは小学生3年生か4年生でした。当時母親が買っていた学習教材の付録のソノシートに録音されていたものが、バッハ。今思えばそれは「フランス組曲第5番のガヴォット」でした。あまりに有名で、かつ分かりやすいこの曲に自分は取りつかれたのです。特に右手と左手で作り出される対位旋律が立体的に膨らむ様に目を見張ったのです。

本格的にバッハを聴き始めたのは学生時代です。グレン・グールドの録音のお陰でした。まるでロックのようにリズミカルに演奏されるバッハは「クラシック=退屈」というステレオタイプを瞬時にそして明快に破壊してくれました。そしてその先は様々なソリストの録音で、ピアノで、チェンバロで、オルガンで、バッハの膨大な器楽曲に触れたのです。

平均律上巻と下巻、インヴェンションとシンフォニアフランス組曲、パルティータ、トッカータ、イタリア協奏曲、そしてイギリス組曲、その他の楽曲。聴けども聴けども知らない曲がある。登っても登っても登りたい山がまだ控えている。そう、それはまるで自分には登山の様でした。

今日の演奏会はその中で、イギリス組曲にフォーカスをあてたものでした。演奏会のパンフレットによると、演奏者の曽根麻矢子さんは1991年に「イギリス組曲」をデビューアルバムとして楽壇に入り以来今に至るまで、バッハの鍵盤曲を中心に録音・演奏会と精力的に取り組んできたという事です。

今回の演目はイギリス組曲から短調を3曲。2番、3番、6番。イギリス組曲はプレリュードの堅牢さと明快さそして複雑さに惹かれて自分は4番が一番好きですが、この3曲も魅力的です。

曽根さんの演奏に触れるのは初めてです。どの曲も、第一音に入る前にすうっと息を吸い込む様が印象的でした。息を吸い込んでおもむろに最初の音の打鍵。これですべてが決まるかのような入念な一音は空気を優しく然し確実に引き裂きます。緩急も装飾音も自分が聞き馴れた録音とは違うところもありまるで新しい音楽として耳に届きました。

比較的馴染みやすい2番と3番に比べ第2部に演奏された6番は規模が大きく「長大なプレリュードもジーグも難易度の高い曲」と今回のプログラムにご本人が書かれたコメントが載せられていました。

いずれも満喫です。頭の中にチェンバロの壮麗な響きが満たされて、いつもの様に何時しか自分は遠い世界にタイムスリップするのです。フランス組曲、イギリス組曲、パルティータと、バッハの鍵盤組曲はプレリュードに続いてはアルマンドクーラント、サラヴァント、ガヴォット、ジーグ、といった拍子の異なる舞曲で構成されています。そんなバッハの鍵盤組曲に接すると自分の脳裏には必ず、重たいドレスを着てこれらの舞曲に合わせて優雅に踊る女性の姿が頭に浮かぶのです。絞ったウェストに裾の広いドレス。踊るのは大変だったかもしれません。しかしチェンバロに合わせてそれで舞う様は優雅であり典雅でもあり。

自分だけの想像の世界です。今日も重たそうなドレスを着て踊る優雅な女性が頭に浮かんだのです。ゆったりとしたステップで。くるりと体を回すのです・・。

演奏会は終わり、少しだけお洒落をして、いや、寒かったからかダウンのコートに暖かそうなワンピースを着てきた家内と共に、素敵なコンサートホールを後にしました。耳には豊かな舞曲がいつまでも残っていたのです。(2022年3月22日、東京都渋谷区 白寿ホール)

 

追記その1:本日の演者の曽根麻矢子さんのWEBサイトです。https://mayakosone.com/

追記その2:本日の演奏会の曲目・他のリンクを動画サイトから探しました。
・今回の演目1曲目。イギリス組曲第2番BWV807。バッハを探求し続けたグスタフ・レオンハルトチェンバロにて。https://www.youtube.com/watch?v=1XxP7EBV06A
・演目2局目。イギリス組曲第3番BWV808。グスタフ・レオンハルトチェンバロ演奏。https://www.youtube.com/watch?v=XeZjQJx2MNo&t=227s
・演目3曲目。イギリス組曲第6番BWVグスタフ・レオンハルトチェンバロ演奏。https://www.youtube.com/watch?v=DKpHBPTvJ1I&t=684s
フランス組曲第5番のガヴォット。自分のクラシック音楽への入り口となった忘れることのできない曲です。演奏はロシアの「鋼鉄のピアニスト」と称された20世紀の名演者エミール・ギレリスのピアノで。https://www.youtube.com/watch?v=ffZnrJpQmZY

 

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今日のチェンバロロココ調絵画の描かれた素敵なものでした。18世紀フレンチモデルとパンフレットに書かれています。開演前、第2部開始前にそれぞれ入念な調律が行われていました。曽根さんによるバッハ演奏会は今後も続き、次回はフランス組曲。そしてその後はパルティータ。更には平均律下巻とインベンション・シンフォニア、イタリア協奏曲、締めくくりにゴルドベルク変奏曲、という精力的なプログラムが続くそうです。どれも行きたいところです。