日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

プロフェッショナルよ、何時までも

床屋。財布に優しくすぐに済む,そんなことで最もありがたいのは1000円カット。手短だし数をこなしているから理容師さん皆さんなかなか上手いです。最後に髪の毛のカットくずを掃除機で吸い取るというのもはじめは驚きました。

これによって「従来の床屋さん」、そのかなりの数が減ったのではないでしょうか。時間をかけたカット、洗髪、髭剃り、襟足剃り。剃りの前には暑い蒸しタオル。肩揉みもあったりと、そんな伝統的スタイルの床屋さんはなかなかのリラクゼーションの場であったとも言えるでしょう。

やはり経済的な理由と、効率的であること、それなりの仕上がりであること、そんなことから自分が「従来の床屋さん」を離れて20年は経つでしょう。「省く」「尖らせる」それを明確にして理髪業界の新しいカタチを作ったと、とある1000円カットハウスは当時のマーケティングの教科書にも出るほどでした。

かつて通っていた近所の、そんな「従来型の床屋さん」。ご店主さんの丁寧な仕事ぶりは記憶に深く残ります。なめし革の太帯の革ベルトのようなものに一枚刃のカミソリをシュシュッとあてて刃を研いでいました。そして、まさにマイスターとも言える「技」で、髭や際を剃ってくれたのでした。あれはすばらしかった・・・。そんな店もご主人の高齢化で数年前に閉店です。

先日そのご主人さんとばったりと話すことがありました。

看板は外していましたがお店の雰囲気は当時のままです。ご主人はもちろん僕のことは覚えられていません。自分が過去何度も散髪をしていただき、都度その技に感銘を受けたかを話します。

「まだ刃は研いでますよ。今は皮ではないですが目の細かい研ぎ紙みたいなのがあるんです。」
「今はどこも替刃式になりました。でもお客さんにしてみればやはり一枚刃をキレイに研いだカミソリが一番なんです」

流石に長年の知見に裏打ちされた言葉です。今でも店主さんが、銀色に光る棚から折り畳んだ手のひらに乗るカミソリをさっと出し柄の先端をすっと押し回して刃を出して、シャッシャッと皮でなめす。そしてそれを逆手に構える名ポーズが鮮明に浮かび上がりました。一連の所作は、無駄がなく、流れています。

もう現役も引退され、店も畳まれた。しかし、自らの為か、或いはいつかに備えてからか、未だに刃を研ぐというその話は、熱く静かに燃えるプロフェッショナルの心意気を見せてくれたように思います。

もっと通うべきでした、そんな気もします。あれは本当に素敵なポーズだったのです。ご主人さん、いつまでもプロフェッショナルでいて欲しいな。(2022年1月12日・記)

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使い込まれた木の握り。鈍く光る柄を押しまわすと鋭い歯が出る。なめし皮で数往復。さっと構える名ポーズは、歌舞伎の大見得に近い、美しい所作だった。