日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

●脳腫瘍・悪性リンパ腫治療記(15)「脳外科一般病棟にて(3)」

シャワーが許されるようになった。最初は特例か、と思ったら毎日可能だった。頭の手術痕もお湯をかけてよいという。傷口は閉まっているのだろう。ただシャワーそのものは看護師さん見張りの下だった。それも最初だけで、自分が手すりにつかまりながらきちんとできるとわかると、あとは体をふいて出る時だけ看護師さんを呼ぶようになった。

一般病棟に移る少し前から、看護師さんとは別にリハビリさんが自分の面倒を見るようになった。最初は左半身の動作の確認。右脳を手術したので運動野に何かがあればその影響は左に出るのだ。幸いに悪い所見はない。そしえ歩行訓練。リハビリさんの付き添いがあり病棟を一回りするのだった。最初はおそるおそるの歩行であったが、一般病棟に移る頃には歩く感は取り戻した。一般病棟に移ってもリハビリさんがついてきてくれるがやがて後に歩行器を用いて、独りで動けるようになった。おお、何のことはない、歩けます。

食事も一般病棟に来てからは一般食になったが食事内容の変化と同時にぐんぐん体調が良くなってくることを実感する。

CTを撮影。結果が聞きたいがどんなものか。主治医さんが来て、状況を説明してくれる。まだ細胞診断がつかないという。もう歩けるし、退院だろう、となんとなく思い始めていたがそんな訳はないようだ。主治医はまだ見た目は若い。40代ではないだろう。スポーツ選手のような無駄のない精悍さがあり、いったいどれほど脳外科手術をこなしてきたのか、どんな手術が行われたのか、自分には想像もつかない。ありがたい。本当に感謝しかない。

ある日から病棟の最上階にある売店に行くことが許されるようになった。勝手に歩き回るわけでもなく看護師さんにつきあって頂く。売店の外は硝子戸をあけるとテラスになっており、そこはさすがに2月の空気が冷たい。しかしここで外気を吸って、始めて感じた。ああ、脳手術も終えて、無事にいるな。大変な手術だったんだろうな。ありがたい。そんな実感がわく。ここで、思ったことややりたいことを書き記そうと、ノートを買う。

色々なことが起こる。同じ病室の人たち。糖尿病のくせに看護師に隠れてお菓子を食べている。こんなの、ありか? チョコレートを食べたり、たばこを吸いたがっていた自覚の足りない向かいのベッドの主はやがて急性期治療段階を過ぎたのか他へ転院となった。空いた箇所には新しい患者さんが来る。20代のまだ若い男の子だった。看護師さんの入院の際のヒアリングや説明などが漏れ聞こえてくる。男の子はあまり看護師さんの言うことが理解できないのか、要領を得ない会話が続いている。

もう体は動くような気がする。シャワーにも入れる。いつまでここで待つのかな。就職したばかりの職場、家内から病気の事を連絡しているという事だが、どうなっている事やら。早く復帰しなくては。でもこんな病の後で仕事ができるのだろうか・・むしろ「好きな山が見える緑豊かな場所」で過ごしたい。早く出たい、そんな思いが去来する日々だった。