日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

「丼の中の宇宙」を探す・「丸仙」武蔵小杉

ラーメン。

日本の大衆食文化においてこれほど耳目を集める存在は個人的には浮かびません。自分の中ではカレーは遥かに及ばずラーメンは孤高の存在です。古今、幾多の作品に登場してきました。小池さん、男おいどん。彼らが嬉々として食べていたラーメンは、一体どんなものだったのでしょう。

実写としてわかりやすいメディア登場は「男はつらいよ」でしょうか。寅さんがいつも実家の柴又に帰っては家族といざこざを起こしてしまう。そんな寅さんが出来る事は唯一つ、再び旅に出る。自分自身がすがれるのはそこだけです。啖呵売りの彼は大きなカバン一つで夜更けの上野駅に赴き、駅の食堂で夜行列車が出るまで背中を丸めて器を手にし、すするのです。哀愁が漂ういつものシーン。その器こそがラーメンです。醤油色のスープに黄色い細麺。それは「ラーメン」というか、「支那ソバ」というべきか。どちらでも構いません。小池さんも、男おいどんも、これを食べていたに違いありません。そんなラーメンを自分の理想として、私もそれを探し求めているのです。

ラーメンは器に汁、麺、具。これだけの構成ですが、まさに三位一体のバランスの食べ物。どれが尖っても弱くても残念です。その調和の計らいと小さな器に中でそれがカタチとなっている様は「宇宙」を感じさせます。「器に宇宙あり」。いつしかそんな言葉を編み出し、一人悦に入っている、まぁ変わった人です。

メディアに登場した人気店を辿り歩く、そんな開拓行脚をしていたのは1990年代までで、あとは好きな店をリピートしているだけです。また、ラーメンとのめぐり逢いを求めて自分の知らない場所に赴く事もあります。そんな気に入った店を気の向くままに書いていきたいと思います。これを見ればいつでもそこに行って食べている気持ちになれるように。私と「器の中の宇宙」の架け橋です。

・ラーメン「丸仙」(川崎市中原区・武蔵小杉)

もう25年間以上は行き続けているいつものお店。初めて行った時は家内と二人だけだったでしょうか。そのうち長女が生まれ、三人で行くと一人掛けの丸椅子の間にお店の人が一回り小さな丸椅子を入れてくださいました。そして小さなお椀。中にはコーンが入っていて、お店の心ずかいを感じました。娘が二人になり、4人並んで食べたことも何度もありましたが、やがて娘たちは巣立ってしまい、再び家内と二人だけで食べるのです。

お店の人の符丁ですが。醤油ラーメンは「シナ」で通っています。「ハイ、シナいち。もやし入り」これ、いつもの自分の注文パターンです。長く通っているとお店の方々のメンツや役割が少しづつ変わっていく事に気づきます。それでもしっかり大切な味は維持しているのですね。長い間に味の試行錯誤もあったかと思います。しかし結局原点回帰、いつも美味しい「支那そば」を供して頂いています。今年の初めから春にかけて自分が入院していた病院は偶然にもそのすぐ傍でした。退院した時にいの一番に立ち寄りました。その時はお祝いに背徳の黄色い炭酸飲料をがばがば行きました。あぁこれぞ「娑婆の味」「いつもの味」。自分にはラーメンのグリニッジ天文台のようなモノです。

何時も変わらぬ味を作っていただくお店の人には「感謝」しかありません。「器の中の宇宙」にしてやられました。(2021年4月)

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もやしのトッピングが好みです。とてもいい塩梅の炒め具合です。