日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

●脳腫瘍・悪性リンパ腫治療記(9)「脳外科ICUにて(1)」

「・・・さあ抜きますよ」そんな声がどこかに聞こえたかと思ったら、強烈な違和感が喉を襲い、その不快感で私は一気に目が覚めた。 

「抜管」。気道確保のために口から挿入されていた管を抜いたのだった。 「げー、こんなのが口から中に入っていたのか」、と思うほどそれはずるずると引き出された。

あー苦しい、声出すと、周りの看護師さんたちが「杜幸さん、喋れるね!」と嬉しそうだ。何のことかわからない。

呼吸に問題はなかったが痰が絡むのだろうか、その後何度か、再び口の中にチューブを突っ込まれる。がががと吸引音。痰の吸引、サクションだった。苦しくて仕方がない。

再び記憶が曖昧になってくる。どうやら自分は何らかの手術を頭部に受けて、それが終わったことを何となく理解した。頭はヘッドギアのようなモノに包まれているのだろうか、縫い目らしきモノに触れるが金属的な触感もある。あとでそれが一種のステープラーだと知る。

意識は何度も遠ざかる。その都度、40年前に聞いたロック音楽が何故か頭の中に溢れ、それが私を勇気づけた。まるで、こちらに戻って来いよと言わんばかりの強いビートと歌だった。再び頭が混濁としてくる。

どのくらい時間がたったのか。よくわからない。「手術が終わりましたよ。」という看護師さんの言葉が断片的に記憶に残った。

看護師さんが何度も自分の左手の挙動を確認している。何をしているのか。

どうやらここは脳外科の集中治療室(ICU)らしい。いったい今は何時のなのか。とりあえず言葉は喋れるし。意識もある。ああ、脳に腫瘍があり、それを摘出したのか。

「俺はこんな病気で負けるわけにはいかない。そう、前々からの夢である「好きな山が見える緑豊かな場所」で、スローに生活をするのだ。その為に、こんなところで負けるわけにはいかない」・・そんな思いがこの時点でむくむくと、ひどく心の中に大きくなっていた。いやそれは今思えば、術前から持っていた想いのようにも思えるのだが。

とにかく無事なようだ。ありがたい話だ。

それは2021年1月27日のことだった。1月20日に救急搬入され、21日に緊急入院。そしてその6日後だった。この6日間については、自分には一切の記憶がなかった。MRIにかかったた記憶もあるがそれは術後にも思える。やはり術前の事は曖昧としているし抜管で覚醒するまでの記憶はなく、あっても不明瞭だったのだ。

関係者からの後日談をまとめるとそれは術後の事だと思っていたことをやっていたり、術前準備で様々な検査も受けていたようだった。

昼夜なく明るくなっているICUにいると、なんだか生きているのだがそれが絵空事のようにも感じられるのだった。