日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

魔法の本

魔法の本
鉄道旅のやり方、というか、計画の仕方からキップの購入まで、随分変わりましたね。
緑の窓口にて(あるいは予め)分厚い時刻表で行先迄の乗り継ぎを自分で検討し、窓口にて切符購入申込書にそれを記入する。
駅員に手渡すと、駅員はその申込書を片手に、パタパタと端末をいじりだす。そう、パタパタと金属板のページをめぐり、使うべき路線のページから行先駅に棒を差し込んでいくのです。マルス。現在の発券システムもそう呼ばれるようですが、自分にとってのマルスは、このパタパタと差し込み棒があってこそ。今のあのタッチパネル式の券売機にはシンパシーを覚えません。
傍から見ていて魔法のような端末をいじる窓口職員はまさにヒーローでした。しかし自分も一回で良いからあのパタパタをめくって棒を差し込みたい。そんな思いが子供のころからありました。今でもやってみたい。鉄道博物館にでもあるのでしょうか?
さて、そのプランニングの基となるのが「時刻表」。自分の家には父親が会社から持って帰ってきた「用の済んだ」(期限の切れた)時刻表が常に数冊あり、小学生の時から、暇さえあればそれをじっくり見ていました。冒頭にある路線図がそもそも好きで、国鉄ってこんなに凄いのか!とそのネットワークに唸っていました。日本の地理・地名は学校教科書の一環である地図帳ではなく、間違えなく時刻表の地図で学んだのです。
特に食事をしながらそれを読むと、ますます食事が美味しくなるという、調味料のような本でした。お気に入りのページはやはり生まれ故郷の四国が載った頁。関東地方の路線図(拡大図)も好きでした。北海道や東北、北陸。知らない地方のページを見ているだけで、ワクワクを抑えることが出来ないのです。食事で汚れた手指の油分が、さして紙質の良くない時刻表のページにしみこんでいくと、あぁ読んだ、という実感と共にますますその分厚い本に愛着を感じるわけです。
更に、時刻表の各本線の当該ページの枠外には、その各本線の駅弁提供駅での、駅弁メニューが記載されていたのです。夢のような話です。東北本線なら黒磯駅の九尾釜飯、信越本線なら横川駅の峠の釜めし上田駅のトンカツ弁当・・・挙げだしたらきりがない。その弁当の名前もそらんじてしまい、未知(あるいは既知)の風景を頭に浮かべる。これは最高のひと時でした。
やはり時刻表の魅力は、頁を繰ればどのような線に、どんな列車が、どのように走るかが一目瞭然なところです。あ、これは、この駅で特急に抜かれるんだな。7分停車か。駅そば食べられるな、とか、無限に想像が膨らみます。列車に列車番号 というのがついていて、末尾がMなら電車、Dなら気動車、無印は機関車牽引による客車列車(今は残念ながらほぼ消滅しましたね)と乗る前からどんな形態の列車が来るのが時刻表を見れば一目瞭然です。ワクワクするわけです。どうせなら電車ではなく機関車牽引の客車列車に乗りたい。だからこうしよう・・夢が膨らんではちきれそうです。
魔法の本、そうとしか言いようがないのです。
しかし今日では、まず、スマホで乗車駅と降車駅、特急使うかなどの設定を行えば、すぐにベストの時刻が読めるので、便利と言えば便利。そのまま切符を買えばよいのです。しかし、その一本前はどうか、各駅停車で途中まで行ってそこから優等列車に乗れないのか?などと考え出すと、スマホの乗換案内ではほぼ検索が不可能ですね。スマホさんよ、あなたが出してくる乗り換えが必ずしもベストではないよ・・・、そう言いたい。
だからはやり時刻表なのです。これで育った世代は、この本がないと不安です。最速手段ばかりをみんなが望んでいるわけではないのです。
久しぶりに、本当に久しぶりに、時刻表を書店で買いました。中央線のダイヤに興味があったのです。ダイヤに関して不思議に思っていたことはすべてこれを読んで解消されました。どの区間にどんな列車が走るのか、一目瞭然です。
しかし・・・・・冒頭の日本地図を見て驚きます。どれほど多くの地方線が消滅したのか。見知らぬ社名の鉄道会社に代わっているのか。唖然とします。北海道のあの鉄道網はどこへ消えたのか。宮脇俊三さんがご存命なら、さぞや悔しがられたか、と思うのです。 もちろん、枠外の駅弁リストも消滅しています。
もっとも購入したのは大判(普通判)ではなくポケットサイズですので偉そうには言えませんね。しかしこれを読んでいると昔の通りで時の経過を忘れます。
鉄道全盛期の頃が懐かしく、目下古本で、1970年代から80年代前半の時刻表の購入を目論んでいます。再び、夕食の際の手指の油汚れを、あのページに染みこませたいのです。
あの時代の時刻表なら、ページを開くと、懐かしい湘南電車や、EF65が牽引する綺羅星のようなブルートレイン、あさかぜ、はやぶさ、さくら、みずほ、瀬戸。大好きなEF58は銀河を引っ張っていた。EF70に牽引された北陸本線の客車列車。冬の彼らはその前面が雪まみれでだった。そして懐かしすぎる四国のキハ達、予讃線土讃線分岐駅の多度津で、何台ものキハがアイドリングしていたことか。そんな彼らの鼓動が伝わり、キハの排気煙が漂ってきそうなのです。
効率化ですべてが新幹線に代わってしまった。あの日本鉄道史上、消すべきではなかったと思う横川・軽井沢間すら長野新幹線の犠牲となり廃線になってしまった。これが皆さんの求める姿だったのかと思うと、何か違う気がするのです。
時刻表よ、あなたはまさに「魔法の本」。本当に、永遠なれ。

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