懐かしい味
スーパーで見つけたので迷わず購入。
中村屋のチーズあられ。もう50年も昔から確実に存在しているお菓子。あられというよりはチーズ焼き菓子。しかし後のチーズビットなどにあるような濃厚なチーズ感とパウダーっぽさがある訳でもなく、薄い塩味が軽くてクリスピーな焼きチーズ生地とフィットして飽きの来ない味。
50年前と何ら変わらない味なのではないかと思う。
これには思い出があった。自分が多分小学校3年生の頃だろうか、近所のお菓子屋さんで発見したのがこれ。妙に美味しくて、当時流行っていた仮面ライダースナックなどよりもあっさりとした味に惹かれて、ライダーカードのインセンティブがなくてもよく買ったものだった。何よりも2歳年上の姉もこのお菓子のファンだった。
だからお小遣いを貰うと姉と二人でもつれ合ってお菓子屋に行ったのだった。目指すは、ずばり「中村屋のチーズあられ」。
さして大きくない袋を二人で食べるのだからすぐになくなった。だから頻繁に買いに行くことになる。
あまりの指名買いぶりにたまげたのはそのお菓子屋さんのおばさんだった。しまいに二人で買いに行くと、何も言わずに袋を取り出してくれるし、極めつけはこれだった。
「これ、おいしいの?」
子供心にも少しその質問は恥ずかしかったが、店主も唸る我ら姉弟の買いっぷりだったのだろう。
今でも時々このパッケージを目にすることがある。より小さな袋になってスーパーの駄菓子コーナーにカレーせんべいとともに置かれていることもあるけど、欲しいのはこの大きさではないんだな。
本命はメジャーなスーパーよりも、小さな店やドラッグストなどで見かける事が多い。見つけるともちろん条件反射的にカゴに入れる。
袋のデザインは全く変わっていない。袋を開けたときの匂いも。味も。
流石にスーパーのレジでは「これ美味しい?」と言われることもない。しかしあれを争うように食べた姉のことは懐かしく思い出す。
昭和40年代のお菓子屋。バリカンの効いた頭の自分と限りなくおかっぱ頭に近かった姉。もつれ合って歩いた道は舗装道路でも少し埃っぽかった。
そのお菓子屋はもう今はとうになくなり、その姉も数年前に鬼籍に入った。
このお菓子、一体誰と食べればよいのだろう。いつも思い出してしまう昔日に、少ししょっぱいこの懐かしいお菓子が、更にしょっぱくなる。
優しくてよく笑っていた姉だった。少ししんみりしてしまう。けれどそれをいつものように家内と食べることにしたいと思う。
ありがとう、と、何故か、口に出る。
ありがとう、変わらぬ味。過ぎた日。懐かしい姉。美味しく食べているよ・・・。